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JMAマーケティングコラム 第39回「おひとり様時代の『おみおくり』」

2015/03/26

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
取締役フェロー 澁野 一彦

■弧独死は可哀相ですか? 

新聞紙面では身寄りのない高齢者の孤独死が、社会問題としてよく取り上げられている。
しかし、そのすべてが悲惨で不幸なことのように語られるのを聞くと違和感を覚える。彼らは本当に不幸で可哀相な人ばかりなのだろうか。

一人で暮らし、誰にも看取られずに息を引き取る。そんな自分の最期は、単身者だけに限らず家族を持つ身にとっても容易に想像ができる。

最後の団塊世代が75歳以上になる2025年には、65歳以上高齢者で単身世帯(35%)が夫婦世帯(32%)を上回り、単身世帯が標準世帯になる。"おひとり様で死を迎える"ことは決して他人ごとではない。

そんな"ひとり身の死"を扱った、英国映画『おみおくりの作法』を観た。
  おみおくり.jpg
※公式オフィシャルサイトより

身寄りのない人の葬儀を行う地方公務員の姿にスポットを当てた人間ドラマ。
ロンドンで民生係として働く44歳の独身男性は、担当地区で孤独死した住民の葬儀を執り行うのが仕事である。この風采の上がらない中年男のジョン・メイは、受け持ちの地域でひとりきりで住んでいる人が亡くなると、死後に必要なことのいっさいを取り仕切る。どこかに身寄りはいないかを調べ、見つからなければ自分が唯一の参列者となり葬儀を行う。部屋に残された少ない手掛かりから宗派を特定し、教会を決め、葬儀で流す音楽を考え、空いている墓地を探して埋葬する。
(映画レビューより抜粋)

この中年の主人公もひとり暮らしの生活をしており、仕事を終えて部屋に帰れば、決まって魚の缶詰を皿にあけて夕食とするような簡素で孤独な暮らしぶりが描かれている。(興味深いので写真を掲載します)

【主人公ジョン・メイの毎日の食卓】
 ジョンメイの毎日の食卓.jpg
※配給会社画像より
主人公の狭い部屋の中はきちんと片付けられており、毎日規則的に出勤し、規則的に帰ってくる。
孤独に生きる律儀な人が、孤独な死を迎えた人の最後を心を込めて看取る構図が象徴的である。
この単調なひとり暮らしの主人公の生活が、死者を含む他者との出会いを通して彩りを持ち始める。
たとえ数多くのにぎやかな友人や家族に囲まれていなくても、誰かとつながることによって、また社会と
少しでも関わることで孤独じゃなくなる ということを伝えてくれる。

映画は、ラスト思いもかけない終わり方をするが(ネタばれになるので詳しくは言わないが・・・)、この物語は、ひとり身で死を迎えることを決して哀しいものとして描いていない。この映画を観終わった時、一人ぼっちで死ぬのも悪くないと思えてくる。


■おひとり様の看取り

2015年時点の日本人の平均寿命は、女性が87歳、男性が80歳。
同い年の男女が結婚して、それぞれが平均寿命まで生きたとすると、多くの場合女性のほうが長生きをする。つまり、女性は老後の何年かを、未婚・既婚に関わらず高確率で「おひとり様」として過ごす運命にある。

男性の場合でも、「おひとり様」と無縁といえず、現在35歳〜44歳までの未婚者で親と同居している人は2012年で200万人弱存在。20〜30年後、親が亡くなれば、「おひとり様爺」になる可能性が高い。

また、「子供がいるから・・・」という声もあると思うが、65歳以上の高齢世帯での子供との同居率は、2015年で23%と年々減少の一途を辿っている。弊社の高齢者を対象とした調査でも、現在子供と住む高齢者でも「最後は子供の面倒にはならない」「最後は、自分ひとりで逝く」と応える人が多い。

とにかく、超高齢社会日本では、「おひとり様の老後と看取り」を考える必要がない人はいないといっても過言ではない状況なのである。

ひとり身の看取りについては社会学者の上野千鶴子女史が、日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄医師との共著『上野千鶴子が聞く。小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』の中で、どうあるべきかを問うている。

〜本の内容から
「生まれる所は決められないが、死ぬ処は自分で決める」ことが、「在宅ひとり死の本人のこころ構え」である。

そして、このこころ構えがあるなら「在宅ひとり死」は孤独死ではなく、「希望死・満足死・納得死」であるとも。「ひとりで死ねる。ひとりで死んだっていいんだよ」ということをもっと世間に知ってもらいたい、と氏は言う。

一方、ホスピスで数多くのひとり身の高齢者を看取った小笠原医師は「在宅ひとり死を見送る側の心構え」を挙げている。

「旅立つ本人の意思をかなえることを最優先する」「黙って見守ることも愛だと心得る」「旅立つ人は自分のために家族が犠牲になることを望んでいない、と知る」。なるほど・・・である。
この本では、地域とのかかわり方や、介護保険の賢い利用の仕方、そして最期までおひとり様だった人たちの、医療保険、介護保険で支払った費用、最期を迎えるまでに実際に使った全費用まで明かされている。

ひとり暮らしは、生活習慣で慣れの一種である。ましてや長年に渡り、ひとり暮らしを続ける「おひとり様」は、ひとり暮らしのベテランである。素晴らしく楽しい人生を歩んできて、歳を重ねた後(1人で生きていることに十分な
満足を得た結果)、最後はひとりぼっちで死を迎えても「それで良し」と思って亡くなった人は少なくはないのではと思う。

高齢社会では標準世帯である「単身高齢者」のひとり身での死は決して特別な事ではなく、ましてやその人の人生の軌跡を知らない他人が、可哀相などと思う(言う)のは不遜なことなのである。