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リサーチ道場 第36回「現地に赴く海外調査〜UAE調査を経て」

2016/05/24

タグ:牛堂雅文 ドバイ 海外調査 エスノグラフィー調査

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文

今回は私が直近で経験させて頂いた、UAE(アラブ首長国連合)「ドバイ」での調査を元に、海外調査について考える材料にして頂ければ…と思います。

UAE、特に「ドバイ」というと富豪が多く、世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」などが思い浮かびがちですが、今回はもう少し地に足の着いた話となります。

ドバイ街中2.jpg


●文化・環境の事前理解

海外調査で、渡航のかなり以前に調べる点として、調査を何月、何曜日、何時ごろに実施するか?といった話があります。

これはまさに現地習慣理解の第一歩となる点です。今回のUAEでは金曜と土曜日が休日であり、西洋とは異なる休日となっていました。(イスラム圏では本来は木金休みですが、UAEでは土日休みの西洋諸国などに配慮し、金土にずらしたそうです。)

また、日本では「正月」「ゴールデンウィーク」「お盆」、その時の「帰省」といった独自の習慣があるように、イスラム圏の国では「ラマダン(断食)」といった独自の習慣があり、長期休暇ではありませんが、ライフスタイルが大きく変わる時期となります。

「ラマダン」の時期は日中太陽が出ている時間帯での食事を禁じられており、日の出前に食事を済ませてしまい、日中を挟んで日没後に再度食事をとる生活に移行します。食事以外の生活リズムも変わり、「ラマダン」は日々の生活に大きな影響を与えます。

こういった習慣や、時期ごとのイベントは調査設計に影響しますので、調査の可否と同じ位のタイミングで確認することになるかと思います。

それ以外にも、国内・国外に関わらず、対象条件、サンプル数、コストなど設計に関する点は早い段階で確認が必要でしょう。


●現地調査会社との打ち合わせ

事前に企画書、メール、電話等でいくらコミュニケーションを重ねていても、現地調査会社との直接の打ち合わせを設けるとよいと思われます。(自社で海外展開している場合も同様かもしれません。)設計の意図、何が知りたいのか、どういう仮説を持っているのか…など、ニュアンスレベルで伝えるには直接お会いするのがベストです。

今回も、打ち合わせで解決できたことがありました。

また、他国の例でいうと、アメリカなど合理的思考が強い国の方と仕事をする時は、日本の細かい気づかいや、細かい割り付けをあっさり無視したり、結果的に達成されないまま終わることがあります。

このあたりの摺合せも実査前に終わらせておかないと、余計なコストやトラブルを生む原因となりますので、その国での通常のスタンスも尊重しつつ、合意できるところを探ることとなります。


●エスノグラフィー調査

今回の調査は厳密には文化人類学で言う「エスノグラフィ―」ではないのかもしれませんが、現地に出向きますし、会場やインタビュールームの中で行う調査とは明らかに違っていましたので、「エスノグラフィー調査である」として話を進めます。(リサーチ業界では気軽にエスノグラフィ―という言葉を用いる癖がありますので、大目に見て頂けると幸いです。)

調査では、ある商品の購入者が対象であり、収入レベルは高すぎず、低すぎずといった線に落ち着きました。そのため、ラグジュアリーカーを乗り回し、猛獣をペットにするような、「ドバイ=お金持ち」の図式で語られる富豪ではなく、もう少し一般的な階層の方が対象となりました。

日本で考えた場合でも、海外からは「日本はアニメ、ロボットの国」と思われているかもしれませんが、間違っても一家に一台ペッパー君はありません。しかし、人は知らず知らずの間にステレオタイプなものの見方になってしまうので、注意が必要です。

また、今回日々の礼拝や、ラマダン(断食)等を含む、イスラム教の宗教的な視点もふまえ、普段の行動、生活を元にヒアリングを行いました。

テーマになった商材に関する具体的な発見は控えさせて頂きますが、イスラムの戒律をできるだけストイックに守りたい方もいれば、プライベートの充実を重視し、無理のない範囲でイスラムの戒律を生活に取り込む方もおり、個々人でかなり濃淡があることも興味深い点でした。

そして、対象者の男性は「カンドゥーラ」という白い衣装を着用している方が多く、日本でビジネスマンが「ちゃんとした格好」をしようとスーツを着て調査に挑むような、そんな心持であることも理解できました。


また、家族に対する考え方も異なっており、UAEでは「家族」と考える単位が大きく、一族含めて15名などと考えるようです。同居家族以外がすぐ人数に加算され、家族人数を把握するのが難しかったのも興味深い点でした。

日本でも親戚一同集まると15名位にはなりそうですが、家族と聞かれて普通そうは考えません。



●エスノグラフィー調査のメリット

その国に、「観光」や「通常の出張」で赴く場合と、「エスノグラフィー調査」で赴く場合の最大の違いが、「生活エリアに踏む込めるかどうか?」という点ではないでしょうか。観光・出張で赴く場合でも、中心部にある「スーパー」「ドラッグストア」「飲食店」「街中にある大きなモスク」に足を運ぶことは可能ですが、郊外や住宅地には近づかないままとなりがちです。

一方、エスノグラフィー調査では、生活圏にまで踏み込み、背景も踏まえて利用シーンに接することができるメリットがあります。今回は運よく、住宅街の中に多々あるモスクの一つに人が集まるシーンを見られるなど、生活の背景の部分を目にすることができました。

また、ドバイでは「パーム・ジュメイラ」などの、別荘の多い人工島が有名ですが、今回の訪問では、真逆の方角にある、やや唐突な感じで郊外の砂漠の中に開発されたマンション近辺にお伺いしました。砂漠の中に工事が終わっていない物件や、工事中の道路も散見され、その国の「背伸びをしていない等身大がわかる地域」を見られました。

国として成長を維持するため、開発自体は背伸びをして進めている感じもありますが、砂漠に突然と建つマンションは少しさびしい感覚もあり、むしろ低価格で住める物件であり、決してそこは「ドバイ=お金持ち」といったきらびやかな世界ではありませんでした。

ドバイ郊外.jpg


●日本で例えると

このことは日本に置き換えれば納得感があると、帰国後に気が付きました。

弊社のある「渋谷」はスクランブル交差点が観光客にとっての名所となり、多くの来訪者であふれています。もし、海外から渋谷に来訪して、渋谷の生活エリアである日本でも有数の高級住宅地「松濤(しょうとう)を訪れたとして、日本人の生活を把握しようとすると、少々おかしなことになりそうです。

「松濤」は地価の高さだけでも顕著ですが、高い壁、監視カメラを設置されている邸宅も散見され、最寄りの大型商店は「東急本店」、「ドン・キホーテ」となります。私をはじめ多くの方の住んでいる地域とはあまりに異なります。(ドン・キホーテは近所にあるかもしれませんが)

駅前のスーパーで食品を買う、ショッピングモールに出かける、ホームセンターに日用品を買いに行く、といった日常的な光景を見るには、郊外の住宅地に行く方が良いでしょう。

宗教に関しても、渋谷近辺なら「明治神宮」に行ってみるのも良いですが、お祭りのときだけ活気づく、「地元のそこまで大きくないお寺や神社」に行った方が、日本のいささか冷めた宗教観への理解が深まりそうです。


●記録

エスノグラフィーと言えば「記録」が鍵となります。写真撮影に対する難易度も国によって異なります。UAEはイスラム圏の中ではまだ写真撮影に寛容さがあるようです。しかし、「女性の写真を撮ること」が問題となる宗教的側面や、「空港の写真を撮っていて拘束された事例」など政府の機密に関する考え方が制約になることもあります。

日本では「個人情報保護」に敏感な方が多くなっていますが、海外ではこのように注意点が異なりつつやはり存在するため、「どうすれば記録が可能になるか?」「どこまでは記録できるのか?」といった検討が必要となります。

一方で、海外のエスノグラフィー調査はかなり貴重な機会であり、非常にリッチな情報が得られるためトラブル回避に気をつけつつも、「どうすれば情報を最大限に持ち帰れるか?」という挑戦もしておきたいところです。

(なお、私の知り合いのドバイ駐在者は、割と普通にパシャパシャと街中で写真を撮っていましたので、少々度胆を抜かれました。ダメな状況さえわきまえれば撮影もさして問題はないのかもしれません。)


●最後に


日本にいる時点では留意すべき程度などが分からないことも多く、習慣の違いもあり、現地でのトラブルも起こりやすい海外調査ではありますが、その場に出向いてこそ得られるリッチな情報はかけがえのないものです。

Web調査で簡単に海外のデータが得られ、その一方で数字の裏側にあるものが分かりにくい今だからこそ、現地に出向いてリッチな情報を得ることの意義が再評価されるのではないか…とも感じます。

そして、海外調査はいつもに増して多くの方のサポートの上に成り立っています。現地調査会社、通訳の方、ドバイ駐在経験のある知人をはじめ、今回サポート頂きました関係者のみな様に、この場を借りまして感謝の気持ちを述べさせて頂きます。