株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 アシスタント・ディレクター 宮沢弥栄子(気象予報士)
「秋分(しゅうぶん)」
雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)
―春から夏の間に激しかった雷も、鳴り響かなくなる時期。9月23日頃。
9月16日(土)からの三連休、台風18号の影響で全国的に大荒れの天候となった。旅行やレジャーに最適な秋の連休に台風の日本縦断、観光業は相当な打撃を受けたのではないだろうか。
冷夏の年はビールやエアコンが売れない、夏の日照不足で野菜の値段が高騰すれば、冷凍野菜や乾物などの野菜加工品がよく売れるなど、商品・サービスの販売動向は良くも悪くも天候の影響を受けることは広く知られている。一方、もっとミクロな視点で“生身の人間”にぐっと近寄ってみるのが「生気象学」という分野だ。
(※なお当記事は科学的な正しさを追求するよりも、気象とマーケティングとの関係をシンプルに分かりやすくお伝えすることを優先するため、サイエンスとして見ると厳密には正しくない表現もあるかもしれない。もしも気象業界の方が読まれていたら、その辺りはどうか大目に見ていただきたい。)
■お天気とカラダの関係をみる「生気象学」
生気象学は「大気の物理的、科学的環境条件の生態に及ぼす直接、間接の影響を研究する学問」と定義される。もう少しやさしく言えば「お天気によって、人の心や体の状態はどんな影響を受け、行動はどう変わるのか」というお話である。
気象と体の関係で最も分かりやすいのは「気温」だろう。人間の体は常に37℃前後で保たれており、3℃上下しただけでもう動けなくなくなってしまう。この「体温を保つ」ということが実はものすごく重要なことで、気温が上れば体温を程度に保つために冷たいものを「欲しい!」と感じる。
実際にはその時点の気温だけでなく、その気温がどのくらい続くのか、また上ったり下がったりの変化等が複雑に関係して人の行動に影響を及ぼす。これらの気象条件と販売データを解析し、生体機能の活動とあわせて需要予測等に活用する「ウェザーマーチャンダイジング」も研究が進んでいる。
一般には以下のような消費動向があると言われているが、実感としていかがだろうか?
・19℃:半袖シャツが売れ始める
・22℃:ビールを飲む家庭が増える
・25℃:アイスクリーム
・26℃:殺虫剤
・30℃:アイスが売れなくなり、シャーベットや氷が売れるようになる
■雨が降ると古傷が傷む理由
気温のように実感できないため一般にはマイナーだが、「気圧」も人体にとても大きな影響を与える。
昔から「雨が降ると古傷が傷む」という言い伝えがあるが、これは決して気のせいではなく、「気象病」や「天気痛」と呼ばれるもので、気温・湿度・気圧などの様々な影響によって現れる体の不調だ。
気圧とは、「空気の圧力」のこと(そのまんま)。気圧が高い=高気圧のときは頭上に乗っている空気の量が多い、つまり体が周りからグッと押さえつけられている状態。空気が濃いので酸素濃度が高く、呼吸は楽になる。反対に気圧が低い=低気圧のときは体が空気に押される力が弱く、酸素濃度も低くなる。
気圧が急激に変化すると、身体は大きなストレスを感じて自律神経が活性化される。その結果、血管拡張・収縮や心拍数の変化が起こり、頭痛・神経痛・めまい・肩こりなどさまざまな症状があらわれるのだ。
気圧と健康については医療分野でしっかり研究されており一般認知も広がっているが、気温に比べてマーケティングへの活用はあまり進んでおらず、少しもったいないように感じる。
■台風が近づくとコロッケが売れるのか?
「日照時間」は心の状態と関わりがある。冬に日照時間が減ると、脳内の神経伝達物質セロトニンの分泌が減少し、疲れやすい、イライラする、眠れないなど感情が不安定になり、うつ病のリスクが高まると言われている。
実は「湿度」も地味にすごいので、いずれ詳しくご紹介したい。
人間はかなりの部分、機械的にできている。体を取り囲むこの空気が心身や行動に与える影響は意外に大きく、また分かりやすい。もしかすると雨の日と晴れの日、気圧が高い時と低い時で「おいしいと感じる味」「手に取りたい色」や「グッとくるコピー」も変わってくるかもしれない。
他にも、
・「台風が近づくとコロッケが売れる」というウワサは本当なのか?
・亜寒帯から亜熱帯まで多様な気候がある日本で、地域による消費行動の違いはどの程度あるのか?
・5ml以上の雨が降るとストリートキャッチによるリクルート協力率はどのくらい下がるのか?
・・・などなど、気になるテーマは尽きない。次回より「気象学」という視点から、マーケティング及びマーケティング・リサーチについて、幅広く考察していこうと思う。
「女心と秋の空」
―移動性高気圧や秋雨前線等の影響で変わりやすい秋の空模様のように、女性の気持ちは移ろいやすいという例え。対句として「男心と秋の空」という言葉も有名。
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【参考文献】
日本生気象学会編 (1992) 「生気象学の辞典」 朝倉書店
福岡義隆(2008)「気象と健康」 成山堂書店