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関西あれこれ 第1回 「タクシーの近距離乗り場」

2018/02/27

タグ:林 奈々 近距離乗り場 エレベーター 新大阪

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 大阪事務所 ディレクター 林 奈々


こんにちは。JMA大阪事務所所属の林と申します。
皆さんは大阪にいらっしゃったことはありますか。  

大阪の玄関口のひとつに「新大阪駅」があります。新幹線を降りたとたんにエスカレーターでの立ち位置が右側になるので、私など「あぁ大阪に帰ってきたなぁ」という実感がわいたりします。

エスカレーター小.jpg

ただ、この新大阪駅新幹線ホームのエスカレーターはしばしば「左側」列になっていたりします。遠方さまざまから来ている人が乗るものなので、さもありなん、という感じですよね。

先日も列が左側になっており、おや、列の先頭は東京の人かしら、と思いながら私は前の人に合わせて左側に立ちましたが、前方から「ここはオオサカじゃ!ボケェ!」という怒号が聞こえたかと思うと、エスカレーターの右側を不本意そうにどかどかと降りていくおっちゃんの姿を目撃しました。

こんなところが、また、「あぁ大阪だなぁ」。これが東京であれば、また京都であっても、立ち位置を間違えたヨソモノに少しイラッとしたとした場合、黙ってイライラするか、せいぜい舌打ち程度でしょう。でも大阪の人は胸にわだかまりを溜めておけないのです。

思ったことは思ったまま口に出す、何なら少々盛って出す。結局はその場の流れに合わせて右側歩きで対応した融通の利くおっちゃんであっても、ひとこと悪態をつかずにはいられないのです。そして慣れない地域の方からは、怖い、ともいわれてしまうのが関西弁。

怒号を浴びせられた方、どうぞ怖がらないでくださいね。あんなのはおじさんの「ぼやき」。特に攻撃的でもけんか腰でもないんですよ。。



新大阪駅からタクシーを利用する場合、新幹線の改札と同じフロア;3階にあるタクシー乗り場がメインになります。ここのタクシー乗り場は、「近距離乗り場」「小型乗り場」「中型乗り場」に分かれています。ちなみに、近距離とは「おおよそ3km圏内」だそうです。


近距離タクシー乗り場.jpg


初めてこの区分を見たときは、なんて売り手本意の分け方だろう、と驚いてしまいました。「近距離」と「中・長距離」を客が乗る前に区分したいのはタクシー運転手側の要望だろうからです。
タクシーを利用するお客さんの中には、目的地までの距離を具体的に把握していない人はたくさんいるでしょう。ましてやここは大阪の玄関口「新大阪駅」のタクシー乗り場なのですから、なおさらです。

土地勘のない大阪に来て、タクシーに乗ろうとして、この乗り場で「私の行きたい場所は、近距離(3km圏内)なの?そうじゃないの?」と戸惑ったお客さんは少なくないと想像できます。

乗り場付近には車両誘導やポーター的役割をしているスタッフさんがいたり案内地図もあったりはするので何とか乗り場は選べるのでしょうが、利用者に手間や不安を強いるのは確か。


「お客さんの利用のしやすさ」よりも「働く側が気持ちよく働ける権利」を優先するこの乗り場システム、おもてなしの日本らしからずどこかの外国っぽいなぁ、こういうのも関西風味?大阪風味?なのかなぁ、などと驚きながら思ったものでした。


同時に、この「近距離乗り場」ができるまで、よほど「近距離で運転手から乗車拒否or悪態をつかれる」事態が多発していたのだろうな、ということも残念ながら想像されました。「タクシーを利用する時、近くだと遠慮する/利用を躊躇する」というのは多くの方が持っている感覚だろうと思います。

実際に、近距離の目的地を伝えて「不機嫌になられた」「ブツブツ文句を言われた」「乗車拒否された」という経験を持つ人も少なからずいます。私にも経験があります。


一方、運転手さんの気持ちになれば、いつかはお客さんが回ってくるとはいえ何十台とタクシーが集まってくる新大阪駅で「遠距離のお客さんだといいなぁ」と期待しつつ並び続けてようやく自分の順番が回ってきたら近場の目的地でがっかり、うっかり「40分待って梅田って!今日は商売あがったりやわ!」などと「ぼやき」のひとつも口をついて出てしまうのかもしれません。


そう考えると「近距離乗り場」システムは、お客さん側も近くても気兼ねが要らない、運転手側も納得済みで列を選べる、たいへん効率的な策であるとも言えます。実際、近距離を頻繁に利用する私にとっては非常に心理的にラクです。

そもそも従来のタクシー乗り場は、お客さんが乗り込んで行き先を告げるまで目的地が分からない、行く方向も距離も千差万別なお客さんが1列に並んで誰がどのタクシーに当たるかは順番次第、と不確定要素が多く、ほぼギャンブルだったのです。

誰も望んでいないギャンブル要素を減らして需要と供給をより効率よくマッチングさせるこの仕組み、実はマーケティングの基本なのでは!?。


「玄関口に到着したお客様には少しのお手間もかけさせず誘導すべし」「タクシーは、偶発的に乗り込んだ客がどんな行先をオーダーしても快く運ぶのが当たり前」といった思い込みや価値観をいったん脇に置いて、
「この場において利用者が一番負担に感じていることは何か?問題点は何か?」を見極め、現実的に解決しようとしたのがこの「乗り場区分システム」なのです、おそらく。


現在、サービス利用者が増えている「Uber(ウーバー)」(※)「LINEタクシー」などのタクシー配車アプリも、自分の現在いるところにスマホで手軽に車を呼べるというだけでなく、事前に現在地と目的地を入力してマッチングすること、それにより概算金額もわかり更に現金の持ち合わせがなくてもOK!(アプリ登録時にクレジットカード登録)などなど、従来タクシーを利用する時の「不確定・不安要素が軽減される」ことが評価ポイントとして大きいのではないかと考えられます。


ところで、効率的に思われる「近距離乗り場」、新大阪駅には少なくとも2010年以前からあるようなのですが、全国的にはあまり見かけません。他地域では、近距離でも誰も不快な思いをしていない(不快感を外に出さない?近距離でも十分稼げる料金設定?)、乗り場を分けるほどタクシーの台数がない、等理由はいろいろでしょう。

ちなみに、公益財団法人大阪タクシーセンターというところが毎年「タクシー利用に関するアンケート」を実施していますが、そこに「JR新大阪駅の近距離タクシー乗場の必要性」という項目があることから、この乗り場システムが実験的な試みであり賛否両論あることが分かります。

平成28年の調査結果では、「必要」42.7%、「必要ない」16.5%、「近距離乗り場を知らない」40.8%、(回答数:全709件中)、新大阪駅配布分の48件ベースでは、「必要」が73%ということです。


全国的にレアで、大阪でも知る人ぞ知る「近距離乗り場」、よかったら一度お試しください。(笑)


※Uberは、本来は、タクシー配車のみならず、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを作っていることが特徴の、ドライバーと利用者をマッチングするサービス。日本では自家用車による運送サービスは認められていない。