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シブヤ龍太郎のリサーチファイル 第1話「ギャルを調査するんですか?」

2010/07/02

タグ:ギャル調査 テキストマイニング

ギャルを調査せよ

シブヤ「ギャルを調査するって本当なんですか?」 主人公:シブヤ龍太郎

大崎「びっくりしました?シブヤさん……えへへ、そうなんですよ、最初聞いたときは僕も驚きました。」

シブヤ龍太郎は、30才男性、最近アシスタントディレクターになったマーケティングリサーチャーである。さきほど、得意先である【ジャパンドリンク社】の大崎からかかってきた電話での相談にシブヤは度肝を抜かれていた。

シブヤ「最近ではギャルが農業をするとか、漁業をするとか、確かに気にはなっていたんですが……、一体どういうことなんですか?」

大崎「今度うちの会社で『今までにない発想のドリンク』を作りたいと考えていまして、社内でブレストをしたところ、色々な案が出ました。」

シブヤ「今までにない発想のドリンクですか……、興味深いお話ですね。」

大崎「そうなんです。そして、ターゲットについても色々議論したのですが、その中でも情報発信力が強くて、今うちの製品で取り込めていない層として注目されたのが若年女性でして、その中でも元気があるのが【ギャル】ではないか……。そして、その層に向けた製品を作るならまずは彼女たちのことを知るべきだろうということになったんです。」

シブヤ「それで【ギャルの調査】というお話になったんですね。分かりました、もっと詳しくお聞きしたいので、お打ち合わせをさせて頂けませんか……。」

シブヤは日程を調整し、ジャパンドリンク社の大崎と打ち合わせをすることとなった。

後輩:麻布さやか 麻布「シブヤさん、どうしたんですか?ずいぶんリアクションが大きかったですけれど……?」

隣の席でシブヤの電話を気にしていたのは麻布さやか。現在25才、入社3年目になるシブヤの後輩で同じチームでリサーチを行っている。

シブヤ「俺、そんなにリアクション大きかった??……いや、本当にビックリなんだよ。ギャル対象に調査をするんだって。」

麻布「ギャルって…あのギャルなんですか?小悪魔agehaとかあんな感じの……。」

シブヤ「ageha……そうか、そんな感じかな?たぶんそんな感じ……。」

麻布「シブヤさん、ギャル雑誌ってわかります?」

シブヤ「あの派手〜なヤツだよね、中まで見たことはないんだけれど……。」

駒場「なんだシブヤ、ギャル雑誌を読んだことがないのか。」 上司:駒場栄二郎

会話に割って入ったのはシブヤの上司の駒場だ。45才で二児のパパ、企画部のマネージャーであり、経験豊富で何かと頼りになる。声は低くダンディーだ。

シブヤ「駒場さん!読んだことあるんですか?さすがですね!」

駒場「まあな、流行りものは一応押さえてるぞ。他にもegg、Popteenも押さえておいた方が良いな。麻布、ちょっとその手の雑誌を買っておいてくれないか。」

麻布「わかりました。でも、駒場さんなんだか詳しそうですね……。」

駒場「いや、うちの娘がくみっきーがどうとか騒いでいてだな……。ほら、早く行かないと本屋閉まっちまうぞ!」
※ギャル雑誌で人気のモデル「舟山 久美子」の愛称である。

ギャルを定義せよ

数日後、ジャパンドリンク社大崎との打ち合わせを終え、シブヤたちは社内でミーティングを実施した。今回は座談会を実施することになったのだが、【ギャル】の定義そのものに曖昧さがあり、その点がネックとなっていた。

後輩:麻布さやかの穏やかな表情 麻布「シブヤさん、ギャルってイメージはできますが、いざ集めて意見を聞くとなると対象条件はどうすればいいんでしょうね?」

シブヤ「そうなんだ、ギャルというと簡単に聞こえるけど、実はどういった人が【ギャル】にあたるのか?この部分が難しいと感じているんだ。今更、ガングロ、コギャル、ヤマンバって感じの人もあまり見ないような気がして…。」 主人公:シブヤ龍太郎の穏やかな表情

麻布「最近だとそんなに濃いファンデーションの子とか、日サロで焼いている子は見かけませんね。多かったのは私が高校生の頃かな…。」

シブヤ「そして、『あなたはギャルですか?』と聞かれて『はいそうです』っていうのも引っかかっていて。」

麻布「そうですよね。女性って自分よりもっとおしゃれな人がいると思って、自分から○○ですって名乗りにくいかもしれません。」

シブヤ「草食系男子や森ガールにしても、自分から『僕は草食系男子です』『私は森ガールです』なんて言わない気がするんだ…。」

駒場「おうおう。議論しているな!大体そういった分類は本人ではなく、そういう人や現象を見た周りが決める事が多いからな。」
近くを歩いていた上司の駒場が割って入った。
上司:駒場栄二郎

シブヤ「じゃあ、どうやったらギャルを定義できるんでしょうか?」

駒場「いっそのこと、みんながどういう人をギャルだと思っているか、聞いてみたらどうだ?」

シブヤ「…そうか、分かりました!うちのWebモニターに、どういう人がギャルだと思うのか調査してみましょう。」

駒場「そう、それだな。客観的に見たギャルの条件を調べてみよう。そうでないと、ギャルを集めて調査はできないからな…。それにしても仮説は必要だぞ。」

シブヤ「はい!仮説はマーケティングリサーチの基本かつ、一番大事なところですね!」

駒場「そうだ!しかし、まるでメルマガ読者にでも言っているような模範的なセリフだな……。」

シブヤ「……そこ突っ込まないでください!じゃあ、さっそく仮説構築をします!」

シブヤと麻布はギャル雑誌や、センター街を歩く女性のファッション、Web、ブログなどをチェックし、【ギャルの定義】の仮説を作っていった。
【ギャル】には、行動や心理といった内面的な要因もあると思われたが、その点のみでは【ギャル】以外との区別がつきにくく、メイク、ファッションスタイル、ブランドなど外から見て分かる特徴に多くの要因があると考えられ、行動、心理以外の外的な要素にスポットライトをあてた仮説が作られた。

ギャル調査(1)プレ調査結果を見よ−ギャル雑誌

同期:難波隆 難波「龍太郎、集計あがったぞ。」

シブヤ「おっ、早いねーサンキュ!」 主人公:シブヤ龍太郎の楽しげな表情

難波「まあね。次のヤツは時間がかかるからまずはこっちを見といてくれないかな。」

シブヤ「分かった。よろしくな!」

難波は集計部に在籍するシブヤの同期であり、集計の達人として一目置かれている。そして、入社以来のシブヤの友人である。
ギャルの定義・条件を定めるため、仮説に基づいて調査票が作成され、既にWeb調査が終了し、シブヤは集計結果を心待ちにしていたところだった。
調査はファッションに感度が高く、比較的ギャルと年代が遠くない、15-29才の女性を対象に実施された。(男性は他の調査結果から女性ファッションに疎い事が分かり、対象外とした。)

調査概要
調査目的 周囲から見た【ギャル】の条件を定量的に明らかにする
調査手法 登録モニターに対するWeb調査
調査対象 一都三県に居住する15-29才の女性
サンプル数 281s
調査時期 2010年6月

シブヤ「まずは、分かりやすいところから【ギャル雑誌だと思う】で上位に上がった雑誌を見てみよう。」

ギャル雑誌に関するグラフ

後輩:麻布さやかの楽しげな表情 麻布「予想通り、『小悪魔ageha』が認知率も高く、【ギャル雑誌だと思う】割合も一番高くなっていますね、……70%ですよ。」

シブヤ「本当だね!『egg』も64%と高い数字だね、そして『Popteen』『S Cawaii!』と続いている。」

シブヤ「他にも『JELLY』『Ranzuki』も【ギャル雑誌だと思う】の平均を上回っているけれど、認知率が低いので、ちょっと位置づけが違うと考えた方が良さそうだ。」

麻布「雑誌については見えてきましたね!」

シブヤ「でも、駒場さんの教えてくれた雑誌が上位にきているから、それが一番の驚きだよ。」

麻布「ふふふ、本当にそうですね。」

麻布の笑顔に少しドキッとしたシブヤであった。
他にも、メイクや、ファッションスタイル、意識、ブランドなどいくつかの項目でデータを追っていった。

ギャル調査(1)プレ調査結果を見よ−テキストマイニング

同期:難波隆の穏やかな表情 難波「龍太郎、おまたせ、例のヤツできたよ」

シブヤ「待ってました!テキストマイニングTRUE TELLER(トゥルーテラー)のアウトプットだね!」 主人公:シブヤ龍太郎

難波「龍太郎、その読者に説明してるっぽいセリフはなんだい?周りに誰かいるんじゃないの?」

シブヤ「そこは突っ込むなって!」

テキストマイニングとは、対象者が回答した文章をプログラムで解析して、どういった回答が多いのか、どういった傾向が見 られるのかについて分析する方法である。もちろん、生の意見は一件ずつ見ていくのが最も正確に意図を把握できる方法といえるが、全体の傾向を掴むためには テキストマイニングは頼りになるツールである。

【ギャル】メイクに関する自由回答表

単語の集計(全体)
No. 単語 件数
1 つけまつげ 124
2 濃い 115
3 メイク 70
4 目元 66
5 アイライン 56
6 アイメイク 52
7 派手だ 32
8 黒い 31
9 マスカラ 24
10 アイシャドー 18
11 ばっちり 17
12 まつげ 15
13 カラコン 13
14 つける 13
15 囲み目 10
16 白い 10
17 眉毛 10
18 8
係り受け(全体)
No. 単語と関連するイメージ 件数
1 メイク - 濃い 48
2 アイメイク - 濃い 42
3 つけまつげ - つける 31
4 アイライン - 濃い 30
5 目元 - 強調する 25
6 目元 - 黒い 21
7 まつげ - 盛る 13
8 マスカラ - 濃い 10
9 アイシャドー - 濃い 6
10 眉毛 - 細い 6
11 力 - 入れる 6
12 アイライン - 引く 5
13 眉毛 - ない 4
14 つけまつげ - 黒い 3
15 アイシャドー - 使う 2
16 アイシャドー - 白い 2
17 アイライン - 黒い 2
18 アイライン - 白い 2

後輩:麻布さやか 麻布「シブヤさん!『つけまつげ』124件で断トツですね。」

シブヤ「ギャルと言えば『つけまつげ』なんだ…へーなるほど。」

麻布「2番目の『濃い』115件で多いんですけど、これだけじゃ何が濃いのかよく分からないですね。」

シブヤ「そうなんだ、ただ多い単語を数えるだけでは意味が分からない。そこで右の【係り受け】を見て欲しいんだ。【係り受け】は関係している単語(文節)の組み合わせをカウントしたものなんだ。」

麻布「こうなると、『メイクが濃い』『アイメイクが濃い』ということが分かりますね。」

シブヤ「そうそう!」

実は前に難波に教えてもらった受け売りなのだが、シブヤは得意げだ。

シブヤ「次はこっちを見てみよう。これがサーモグラフだ。」

麻布「すごーい!」

ギャルメイクに関する自由回答(テキストマイニング:サーモグラフのアウトプット)

シブヤ「さっきは関連する2つの単語(文節)で見てみたけれど、『濃い』が何度も出てきたりしていたよね。そこを一枚のマップで見てしまうのがこのマップだ。」

麻布「この温度みたいになっている赤とか緑の色はなんですか?」

シブヤ「それはその回答がどの程度多いかを表したもので、色が赤くなるほど多くなっている。見た目には温度が高いように見えるので、サーモグラフという名前になっているんだ。」

麻布「すごい…。温度が分かるカメラで見ている感じですね。……『メイク』と『濃い』の間がちょっと赤くなっていますけど、これは何ですか?」

シブヤ「そこはさっきの【係り受け】で『メイク』-『濃い』がたくさん出てきたよね、この二つの言葉が同時に使われていると色がついて表示されるんだ。」

麻布「それ以外にもよく分からないところが赤くなっていますよね。」

シブヤ「そうだね、線が引かれていないところが赤くなっていてもあまり気にしない方がいい。二つの言葉の相関が強いところに線が引かれるので、線があるところを見ていけばいいんだ。」

シブヤ「つけまつげと、メイク、アイメイクの濃さ、目元の強調あたりがポイントかな……。」

麻布「赤いところばかり目がいってしまいますが、線を見ることが大事なんですね。」

覚え立てのテキストマイニングについて得意げに語る姿がほほえましくもあり、上司の駒場は遠くから見守っていた。他にも今回のプレ調査の結果から「ギャル」の条件というものが浮き彫りになってきた。

シブヤ「よし、これでどういった人を呼べばイメージしている【ギャル】に来てもらえるのか分かった。じゃあこれをまとめて、本番の調査である座談会の企画を立てようか!」

麻布「はい!面白くなってきましたね。」

次回、シブヤ龍太郎のリサーチファイルでは、ギャルをもっと詳しく理解するために携帯を使った調査ツールが登場します。続きは次号をご期待ください。