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マーケティング・対比思考 第5回 "師匠"と"弟子"

2010/12/09

タグ:梅津 順江 コンテキスチュアル・インクワイアリー 師匠と弟子

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
DGI 室 ディレクター インタビュアー梅津 順江(ウメヅ ユキエ)

"師匠"と"弟子" ― ≪文脈的質問法(contextual inquiry:コンテキスチュアル・インクワイアリー)によるインタビュー≫に用いられる調査手法の中の一(いち)モデルである。

≪文脈的質問法(contextual inquiry:コンテキスチュアル・インクワイアリー)≫とは、「ユーザー行動観察&インタビュー」の代表的な手法の一つであり、商品やサービスが利用される文脈に焦点を当て、その文脈における課題や言語化・意識化されないターゲットの潜在的な欲求を探り、文脈そのもののリデザインも含めたイノベーションの現実を目指すデザインアプローチのこと。

この手法は、「コンテキスト・(デプス)インタビュー」と略称化され、ここ数年、ペルソナ/シナリオ作成の前段階やユーザー中心のデザインプロセスの初期段階で、カジュアルに用いられている。

このインタビューの中で、よく活用される質問法が≪師匠と弟子モデル≫である。


≪師匠と弟子モデル≫

インタビュアーは、調査対象者を"師匠"に見立て、ある日に実際行われた特定の行動を再現してもらい、その振る舞いを"弟子"になったつもりで"師匠"の動きをしっかりと観察する。わからないことがあればその場ですぐに質問。師弟間での技の伝承や、新人教育のためのOJTのようなものである。

もちろん、調査対象者の行動を見て質問を行うインタビュアーが"弟子"もしくは新人の役割となる。

この質問法を用いながら、調査対象者が普段の生活の中で行っている様々な行動、利用のシチュエーションを背後にある環境要因との関係を明らかにしながら、具体的なシナリオを描いていく。


昨年11月、大日本印刷が≪ネットを活用したペルソナ作成サービス≫の提供を開始した。
独自のシステム化によって手間のかかるインタビューを省くことで、ペルソナ作成コストが従来の半額以下に抑えられ、短期間で実施できるのが特徴。

安価な作成サービスの登場でペルソナが身近になり、普及を促進するきっかけになることが期待されてから、ちょうど1年経つ。

― 「ネットで作成」というサービスは現在行っていないようであるが、インタビューを用いたアナログ型のペルソナサービスの受注件数は伸びているようである。

やはり、デジタル化に偏ると、定性調査の醍醐味や効用を現場で実感できないのであろう。アナログ化が見直されている要因としては、

1) "師匠(ユーザー)"とのやりとりの中で、"弟子"が見えにくいものや見落としやすいものを発見できる、
2) 観察やインタビューの過程で、マーケティング担当者が気づきを得られる、
3) 人物像を作り上げるプロセス中に関係者間で共感やチームワークが深まる、
  などが考えられる。

「デザインは動きの中にある」と言ったのは、プロダクトデザイナーの深澤直人氏。

モノを扱うユーザーの動きとその背景のコンテキストは、実際にユーザーである"師匠"を目の前にして調査・観察を行う以外には見えてこない。
経験の少ない"弟子たち"が、動きが見えにくいデータのなかだけで、商品やデザインを考えても良いものは生まれてき難い。

商品開発やデザインを行う上で、何よりも大切なことは、生活の文脈から消費を見つめることなのではないか。