株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
フィールドワーク部 小林祐児(コバヤシ ユウジ)
T.その論理の骨子にあるのは、社会を情報技術のアナロジーで語ることによって「社会の不透明さ」を「技術の明確さ」で埋め合わせる、という構造であり、 |
(1) 「大型計算機」「システム」「ネットワーク」などの無理のある【技術】のアナロジーが
現実の【社会】に無理やり当てはめられつつ、
(2) その社会に重ね合わされた【技術】の側が変化すると同時に、【社会】の側も変化する、
という飛躍的論理が繰り返されていた。
Uにおいて焦点となるのは「近代産業社会」のあり方についてだが、それについて説明を施す前にまず、もっと基本的な問いを立てるところから考えてみたい。
さて、普段我々が行なっている経済活動の基本は「等価交換」にある。このことから確認しよう。
例えば食パン一斤を200円で買うとする。当然のことだがそれは、その食パン一斤の価値が200円分の貨幣の価値と等価であることを前提としている。でなければ売る側はその食パンを譲らないだろうし、買う側も200円を渡すことはない。 お互いにそこに等価な価値を見出しているからこそこの食パンの売り買い=交換は成立する。ここではこの交換を等価交換と呼ぶ。 |
しかしこの等価交換は、経済全体にとって利潤(=儲け)を生み出さない。人々が価値の等しいものをいくら交換しあっても、そこからは元の価値を超える価値が生まれることはないように感じられる。では、儲けを目指す経済活動はどのように行われているのか。
ここでの主な経済活動は、距離が離れた地域同士の交易、つまりそれぞれの場所に根付いている異なる価値体系の間のモノのやり取りである。古代ローマの時代から人は、船や馬などの交通手段を用いて、物理的に乖離した二つの価値体系の差異を行き来する(媒介する)ことによって利潤を発生させてきた。この段階における「他方」と「一方」は、空間的に離れた二つの価値体系になる。
◇この【産業資本主義】は、さらに【後期(ポスト)産業資本主義】へと進展する。
ある企業が他の企業に先駆けて新しい技術を開発/採用し、労働の生産性を高めたとする。それは無論生産コストを抑えて商品・サービスを作ることに直結し、他の企業よりも安く、早く、優れた商品を売ることができる。そこに生まれるのは、技術革新によって先取りされた「未来の価値」と、他企業が採用する「現在の価値」との差異である。
しかし、現在の企業人ならば誰しも身をもって体験しているとおり、イノベーションがその名で呼ばれる時間の幅は、ますます短くなっていく。ここでもやはり「差異」は媒介によって消失していく運命にある。
まとめよう。Uの論点からは、「メディアが社会を変える」の言説は、以下の点で誤っていることが指摘できそうだ。
「特定の技術が、社会をある姿から別の姿へと変える」という発想では、その運動の反復性・無限性を把握できない。〈利潤〉を生み出すべく差異を創り続ける産業資本主義の動的な作動を、ある〈技術〉が登場した時点でバッサリと切り取ってしまう近視眼的な錯誤に陥っている。
「イノベートせよ!」は、ここ数百年われわれが生きている産業資本主義社会が、〈利潤〉を求めてずっと繰り返してきた命題であり、社会の基本構造はここにおいて少しもブレることなく不変である。
確かに、メディア決定論的な議論には可視的な「技術」を前提にできる分かりやすさがある。「技術による社会変革」には、驚くような未来社会のあり方を夢想する高揚感がある。
新しいメディアが登場するたびに、健忘症的にこの同じサイクルは繰り返されてきた。そんな技術の夢物語にはみなどこか飽き飽きしているはずなのに、利潤を生み出す技術革新の運動には「今度こそは」と思わせる麻薬的な魅力がある。
現在の最新の〈技術革新〉であるソーシャルメディアの周りにも、その麻薬の熱に浮かされた言葉はまとわりついている。その誘惑に吸い込まれないためにも、忘れないようにしたいのは次のことだ。
技術を発明するのも、使うのも、広めるのも社会の側であれば、「技術と社会」について語るのもまた社会でしかない。これが今回のエントリにおける「社会学のすゝめ」となれば幸いに思う。
【脚注】
@)現在世界で最もinnovativeな企業の一つと目される米Appleが、2012年第1四半期に463億ドルを売上げ、130億ドルの純利益を発表したことは記憶に新しい。
【参照文献】
岩井克人,1985=1992,『ヴェニスの商人の資本論』ちくま学芸文庫.
佐藤俊樹,1995,『ノイマンの夢・近代の欲望――情報化社会を解体する』(講談社選書メチエ)
新しいメディアが登場するたびに、健忘症的にこの同じサイクルは繰り返されてきた。そんな技術の夢物語にはみなどこか飽き飽きしているはずなのに、利潤を生み出す技術革新の運動には「今度こそは」と思わせる麻薬的な魅力がある。
【脚注】
@)現在世界で最もinnovativeな企業の一つと目される米Appleが、2012年第1四半期に463億ドルを売上げ、130億ドルの純利益を発表したことは記憶に新しい。
岩井克人,1985=1992,『ヴェニスの商人の資本論』ちくま学芸文庫.
佐藤俊樹,1995,『ノイマンの夢・近代の欲望――情報化社会を解体する』(講談社選書メチエ)


