株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 小林祐児(コバヤシ ユウジ)
| ある事象Xは、自然的/客観的実在というよりも、社会的に構成(構築)されたものである。 |
こうして(社会学全体の輪郭に接近しながら)広がっていった社会構築主義的な志向には、多くの批判と問題点が指摘されてきた。その中でも最も議論を呼んだのが、スティーブ・ウールガーとドロシー・ポーラッチ(Woolger & Pawluch 1985=2006)が投げかけた「オントロジカル・ゲリマンダリングontological gerrymandering」とよばれる問題である。
〈社会構築主義〉に向けられた、オントロジカル・ゲリマンダリングの批判ロジックはおおよそ次のようなものである。
| 社会構築主義者が、対象Xの定義が様々に変わることを発見しつつ、「Xは社会的に構築されている」という指摘をするためには、少なくとも《その社会構築主義者にとっては》Xは固定されていなければならない。 |
〈社会構築主義〉は、流行すればするほど、「Xは社会的に構築されているのはわかった。……だが、それがどうかしたのか?」という反撃に合うことになってしまった。
社会構築主義的な発想に基づいて提起されたこの方法論は、対象者の「回答」が、対象者とインタビュアーとの相互作用によって構築されることを強調していた。「回答」は、対象者の内部から言葉によって運ばれる「伝達物」ではなく、インタビュアーとの意味の交換によって様々に構築されていく。
しかし、社会構築主義が陥ってしまう陥穽は、アクティヴ・インタビューにも当てはまる。「回答」だけではなく、「インタビュアー」の立場も「対象者」という役割も、社会的に構築されているはずだ。それならば、「回答は構築されているのはわかった。……それがどうかしたのか?」と肩をすかされてしまう。
面接法における「いかにして回答を構築するか」の重視。だがそれは、社会学・人類学のフィールド・ワーカーから、マーケティング・リサーチにおけるインタビューのモデレーターまで、面接調査を用いる調査者らがすでに様々な試行錯誤を積み重ねてきた場所まで戻ってきてしまうように見える。
私見では、彼らの認識的な命題から導き出される最も大きい示唆は、「純粋な回答」という考え方を捨てることにある。
だが、「調査へ回答する」という経験そのものが、逃げようもなく「社会的」な営みであることを思えば、どんなに形式的に抑制の効いた調査方法を取ろうとも、そう言った意味での「純粋な」回答など、誰も見たことがないはずだ。「構築されている」という主題で照らされるのは、反対側にある「構築されていないもの」の姿である。
ここからは、マーケティング・リサーチに話を限定してみよう。
・マーケティング・リサーチが行う「グループインタビュー」「デプス・インタビュー」はたまた「MROC」においても、モデレーター役の人間はもっと自己開示を試みてもいいのではないか? |
(※1)社会構築主義の陣営(陣営というほどまとまりのあるものではないにしろ)からの対応は、おおよそ2つに分かれる。「厳格派」と「コントテクスト派」と呼ばれるものがその2つだが、内容については『新版 構築主義の社会学―実在論争を超えて―』(世界思潮社)所収の田中耕一の論文がまとまっている。
【参照文献】
Hacking, Ian 1999, The Social Construction of What? Harvard University Press.(=2006,出口康夫・久米暁訳『何が社会的に構成されるのか』岩波書店.)
Holstein, J.A. & J. F. Guburium, 1995, The Active Interview, Sage、(=山田富秋・兼子一・倉石一郎・矢原隆行訳『アクティヴ・インタビュー―相互行為としての社会調査』(せりか書房)
Woolger, S. & Pawluch, D, 1985, "Ontolical Gerrymandering: The Anatomy of Social Problem Explanations", Social Problems, 32: 214-227.(=2006,平英美訳「オントロジカル・ゲリマンダリング――社会問題をめぐる説明の解剖学」平英美・中川伸俊編『新版 構築主義の社会学』184-213,世界思想社.)


