Recent Entry
Archives
Back Number
Tag Cloud
検索
 

リサーチトピックス 第3回「時間のかかるMROC?」

2012/05/30

タグ:牛堂雅文 MROC

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文

MROCは時間がかかる?


既に数ヶ月前の話となってしまいますが、最新手法のMROCを実際に体験して頂く、その名も「MROC体験セミナー」を企画・開催させて頂きました。ご参加頂きました皆様、本当にありがとうございました。

 セミナー風景.jpg

そのセミナー、及び実際に動かしているMROCの中で感じたことがあります。

MROCと今までの多くのリサーチ手法との決定的な違いが、「MROCは時間がかかる」、いや「時間をかけることに意味がある」手法であるということです。

これは今回のセミナーのように「クライアントの方にご理解頂く」という意味でも、そういえます。



短距離走vs長距離走


今までのリサーチ手法は、例えるなら短距離競争的であり、アンケートの20〜30分、座談会の2時間といった枠の中で、対象者から効率的に意見を聞き出していくものでした。日記調査のように時間をかける例外はありますが、大体短期決戦です。

しかし、MROCは長距離走的であり、2週間〜数ヶ月といった長丁場となります。当然セミナーでも数週間といった期間をかけてご覧頂きます。

その期間内に起こる色々の話題、日々起こっていることから対象者理解が進んで行きます。
日々の料理や、低気圧が日本を通過したり、ガソリン代が上がる…そういった事象も話題となり、調査が進んでいきます。

日々起こることで会話が進み、MROCでは対象者とコーディネーター、他の対象者とのコミュニケーションが生じ、接触回数が自ずと多くなります。この「接触回数が多い」ことに意味があると感じています。


単純接触効果


アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスの発表した「単純接触効果」というものがあり、それは【接触の回数が多くなるほど好意的な感情を抱きやすくなる】というものです。MROCでは、対象者との接触回数が多くなりますので、この「単純接触効果」でラ・ポール形成に何らかの好影響を及ぼしているのではないかと思われます。

接触回数が増え、ラ・ポールが形成され、段々と普段着に近い日常がMROC上に切り取られていきます。すると、時間をかけるMROCの醍醐味が出てきます。一瞬であれば、取り繕うこともできるかもしれません。しかし、長く続くことで、生活により接近し、普段着、部屋着の世界を垣間見させて頂く感覚となってきます。

台所、料理など日常の写真を撮って頂いたり、日々の使い方をお聞きしていると、こんな使い方をされているのか…、こういったニーズ/不満があるのか…という事象が、一粒一粒という感覚で発見されていきます。

一つ一つは、今までにないような革新的な発見ではないかもしれまんせん。しかし、そういった日常がジワジワとMROCを見ている者の中に蓄積されていきます。

セミナーでは6チームに分かれ、短いインターバルでMROCコーディネーターを体験して頂いたので片鱗だけかもしれませんが、その感覚を体感して頂きました。


スピードアップの時代に反する?


このようにMROCは時間のかかる手法ですが、ビジネスのサイクルは年々速くなり、ビジネスの意志決定、アクション共にスピードが求められます。セミナーも長期間のものは敬遠され、短期間でエッセンスだけを掴むものが人気だと聞いています。

そういったスピードアップの傾向にある中で、一見すると真逆にあるようなMROCが、アメリカなど海外で注目・活用されているというのは、実に興味深く感じます。

「MROCを常設型にしておけば、聞きたい質問をクイックに聞ける」という側面もあると思いますが、それだけではないでしょう。

根本的にはユーザー心理に常日頃触れることで、一つ一つの発見が積み重ねられ、長距離走的にユーザー理解し、自分の中にユーザーイメージが構築されていきます。あたかも、長距離を走ることで得たような、別の筋肉(知見)が鍛えられているのではないかと推察しています。

見方を変えると、実例にもとづく多数の仮説を作る行為が自然に身につき、それがスピードを求められるビジネスの中で活用されているのかもしれません。


イノベーション、アイディアは多数必要


「MROCの成功事例は?」といったご質問を受けることもあります。その際には、よくゴディバの新商品開発事例が紹介されていますが、私は別の側面に注目しています。それはMROCのイノベーションへの貢献です。

日本では「イノベーション」の意味は「革新的な技術」だという誤解があるようです。もちろんそれも含みますので間違いではありませんが、本来は「新しい捉え方」、「新機軸」、「新しい活用法」、「新しい組み合わせ」まで含めた幅広い言葉だそうです。

画期的な新商品を生み出すには、根幹となるイノベーション以外にも、「多数のイノベーションが必要である」と某社の商品開発担当の方からお聞きしました。まさに前述の広い意味でのイノベーションです。

新しいコンセプトを生み出す時によく実施される「ブレインストーミング」でも、数多くのアイディアを出すことが推奨されています。競い合って数を出す事もあるくらいであり、ここでは「数」が重要な要素となっています。

そういった多数のイノベーションを支える小さな発見達、そこにMROCで対象者の日々の生活から得られた多くの知見が活かされているのではないか…そう感じています。


じっくり取り組み体感する


このようにMROCは、「画期的な魔法の手法」というよりは、じっくり時間をかけて取り組み、そこでジワジワとメリットが感じられるような、長距離走的手法と考えています。

個人的な意見として、数時間の短期集中セミナーでエッセンスだけをご理解頂くよりは、ある程度の時間をかけて実際にじっくりとMROCを体感して頂くことをお勧め致します。

先だって実施致しました弊社セミナーには「日程の問題で参加できなかった」との声も頂いておりまして、弊社では再度「MROC体験セミナー」実施を検討しております。7月末〜8月での開催を検討しておりますので、詳細確定までしばしお待ち頂けますと幸いです。

  
 
2012/05/30
タグ:牛堂雅文 MROC
category:リサーチトピックス