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リサーチトピックス 第4回「ビッグデータ時代の“意識”と“行動”」

2012/08/29

タグ:牛堂雅文 意識 行動 ビッグデータ

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文

8月28日(火)に、秋葉原のUDXにて、「マーケティングアナリシス最前線」をテーマにしたセミナー:JMRX勉強会が開催されました。その主宰・司会を担当させて頂き、講演者の方々と間近で接し、そこで感じたことを踏まえ、「意識」「行動」についての考察を述べさせて頂きます。


■ビッグデータ時代の「行動履歴」という資産


昨今、「ビッグデータ」という概念が注目されています。これはIT技術の進歩などにより、大量の、多様な、リアルタイム性のあるデータが利用可能になってきており、ビジネスでの活用が模索されているためです。

そのビッグデータには、Webのアクセスログ、ゲームの利用履歴、商品の購買履歴など、様々な行動履歴データが含まれます。当然、SNSやブログ、口コミサイト上の意識データも含まれますが、今回は行動履歴データに焦点を当てます。

ご講演の中で、Mobageで有名なディ・エヌ・エー社:濱田晃一氏から、さわりだけではありますが、利用者の行動ログをいかに分析し、サービスの改良に活用されているかお聞きする事ができました。ここまで有効に活用されている事例は日本でも珍しいかもしれませんが、利用者の「行動履歴」が企業にとっての重要な資産であるのは間違いありません。

(なお、ビッグデータ活用で留意すべき点についてもお話がありましたが、ここでは割愛します。)


■調査の回答(意識)は信用できるのか?


よく投げかけられるマーケティング・リサーチに対する批判として、「アンケートやインタビューで得た対象者の回答は信用できるのか?」という問題があります。

対象者が、普段考えていないような整合性を考えて回答したり、見栄などからタテマエで答えてしまう…という話以外にも、「人はそんなに自分のことを分かってはいないし、言語化できないことが多い」という指摘です。

(そこは我々も織り込み済みであり、聴き方の工夫、ノンバーバル(非言語)情報の読み取り、投影法などを利用しており、決して“無防備”というわけではありません。念のため。)

そういった文脈で

「人間の意識の中で顕在化し、言語化できる部分はわずかであり、大部分は潜在意識である。
 故に意識ではなく、行動に注目せよ…」

いう考え方があり、「行動観察調査」が脚光を浴びています。実際に弊社でも行動の把握に重きを置いた調査を実施させて頂いています。

確かに「行動の観察」から得られる知見は多く、この分野ではゼロックスのコピー機の観察調査の事例が有名です。

では、そうなると大部分を占める「潜在意識」にアプローチすべく、ひたすら「行動」を追っていればよいのでしょうか。


■行動履歴だけでもよく分からない


一方、購買履歴データなどを扱っている方からは、「いつ、何が、どれだけ売れたかはよく分かるが、理由が分からない」…というお話もお聞きします。実際にそこを解き明かすために「意識」に焦点を当てたインタビュー調査が行われることもしばしばあります。

また、「このヘビーな購入をするロイヤルユーザーは一体何者なのか?何を考えているのか?」といった課題を頂くこともあります。

Webサービスに関する調査では、実際にWebサービスを使っているところを観察させて頂き、その後のインタビューからアクセスログデータでは分からない発見がされるシーンも散見されます。
「間違った操作をする」、「ボタンなどの上をクリックせずにマウスのポインタが通過する」、「合理的とは考えにくい無駄の多い操作をする」…など、そういったシーンにも出くわします。

「行動」の把握から得られるものは多いのですが、「行動」を追うのみでは万能ではないことがお分かり頂けるかと思います。


■「行動」が大事か、「意識」が大事か?


ここで話を整理するために、8月28日のJMRX勉強会ご講演の中でマイクロアド社:中川斉氏がご紹介された、ヤンケロビッチ博士の概念をお借りします。

米社会心理学者 ヤンケロビッチ博士の「価値観ヒエラルキー」では、以下のようなモデルが提唱されており、性格が行動につながっていく段階を階層化しています。

<ヤンケロビッチの価値観ヒエラルキー>

 (1)性 格(Source) 
    ↓
 (2)価値観(Value)
    ↓
 (3)ライフスタイル(Criteria)
    ↓
 (4)趣味嗜好(Taste)
    ↓
 (5)行動(Manifestation)

これは「意識」が「行動」に影響を及ぼすモデルであり、「意識」→「行動」の流れとなります。

中川氏はご講演の中で、「行動」のデータがたくさん集まると趣味嗜好が分かり、もっとたくさん集まるとライフスタイルが分かる…という「行動」から「意識」へアプローチする使い方をお伝え頂きました。ビッグデータ時代ならではのアプローチと言えそうです。

また、「価値観ヒエラルキー」について、シストラット社:森行生氏の著書「シンプルマーケティング」によれば、一方的なものではなく、「行動」から「意識」へ逆流するケースもあると指摘されています。実際に選んだもの、買った物から、自分の好みが分かるというケースです。

私自身も、今まで多くの調査で得た感触として、上から下、下から上、どちらの流れもあるものと実感しています。


■「意識」と「行動」のギャップ


要は、「主に行動を捉えているならば、意識からもアプローチする」、「主に意識を捉えているならば、行動からもアプローチする」という、補正、補完が重要であり、【片側からでは見えていない部分があるのではないか?】と現状を疑う姿勢が求められているものと考えています。

同じ道路を通るにしても、行きと帰り、上りと下りでは違った発見があるのに似ていそうです。

また、私の持論として「矛盾・ギャップには何かが潜んでいる」と考えています。
卑近な例で言うと「なりたい自分」と「実際の自分」には往々にしてギャップがあるものです。人は、ストレートパーマ、ハイヒール、ブランドもの…などギャップを埋めてくれるアイテムには、財布のひもをゆるめがちです。

IT技術の進展により「行動」が把握しやすくなっている今だからこそ、そういった「意識」と「行動」のギャップからニーズを発見できるチャンスが増えているのではないか…そう感じています。

そしてこう言っている自分自身こそ、「意識」と「行動」のギャップだらけなのかもしれません。実際にITの力を借りて自身のライフログを記録したことがありますが、自分自身でさえ「意識」しているのとは異なる「行動」が発見できました。随分とスモールなデータにはなりますが、まずは手始めに、自身の「行動」を記録し「意識」とのギャップを発見してみるのも一興かもしれません。