株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 小林祐児(コバヤシ ユウジ)
経験的データを集め一般的な理論を構築する――この〈経験的一般化〉というベーシックなプロセスには、実はその中にある「経験(データ)」と、「理論」との間に、埋めがたい溝が口を開けているのではないか、というのがテーマだった。
下の図は、軍隊に入ったとき、「自発的に召集に応じた(volunteered)」もしくは、「自分は徴兵を猶予されるべきとは考えなかったshould not have been deferred」と回答したポイントを、【未既婚】、【学歴】、【年齢】別に集計したクロス表である。
U. 【学歴が高い】ほうが召集への意欲が高い
V. 【若年層】のほうが、歳を重ねたものよりも、召集への意欲が高い
さてここで、読者の方々にも少しマウスの手を止めて、考えてみてもらいたい。
これら3つの特徴について、一貫した説明はできないだろうか?
こうしたある意味で「奇妙な」調査結果を得たスタウファーらが、その説明概念として編み出したのは、〈相対的剥奪 relative deprivation〉と呼ばれる概念であった(※2)。これはつまり、その人が召集によって感じる不満感・剥奪感の大きさは、その人が自分の状況を「誰と比べたか」に大きく左右されるということである。
これを元に、〈相対的剥奪〉の考え方を用いながら、【TUV】を説明してみよう。
T. 【既婚者】のほうが未婚者よりも、召集への意欲が低い
また、高齢になると何がしかの健康問題を抱える傾向が若い人よりも高くなる。そうした問題によって召集されなかった高齢の一般人の存在は、召集された側の高齢の兵士にとって、不満を募らせるタネになる。
一方、ハイスクールをでていないにも関わらず召集された兵士は、自分の周りに多数の「召集されていない知人」が存在する。彼らと比べて、なぜ自分は犠牲を払わなければならないのか。召集された彼らが奪われたのが「青春」と呼ばれるようなものかどうかはわからないが、その「奪われた」感覚は、学歴の低い一般人と比べた時に初めて起こる感覚である。
さて、本題に戻ろう。
中心にあるのは、データを読む時の「切り口」となる概念である。しかも、その「中心」は、データの「外」からやってきていた。
リサーチャーに求められているのは、〈目の前のデータの「外」へと広がっていく想像力〉であり、それはつまり〈発明の創造力〉であるような気がしている。
【注】
※1 むろん、この問題には、そもそも「理論とは何か」という重大な問題が密接に関わっているが、その考察は筆者の能力を超える広大な問題圏が広がっているため、ここでは触れるのを避ける。
※2 "relative deprivation"は当初、マートンの著作の邦訳(Merton1949=1961)において「相対的不満」と訳されて紹介されたが、ここではその後の関連業績の例に倣い、「相対的剥奪」の訳語を採用している)
※3 詳述は避けるが、〈相対的剥奪論〉はその後、前述の社会学者マートンによって、〈準拠集団論〉というより広い射程を持つ議論へと接続されていくこととなった。
Robert K. Merton "Social Theory and Social Structure"(=1961 森東吾・金沢実・森好夫・中島竜太郎訳『社会理論と社会構造』 みすず書房)
Stouffer, S. A., E. A. Suchman, L. C. Devinney, S. A.Star, and R. M. Williams, 1949. "The American Soldier, Volume I: Adjustment During Army Life". Princeton University Press.
高坂健次 2010 「相対的剥奪論 再訪(一~七)」関西学院大学 社会学部紀要


