株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 ディレクター インタビュアー 吉田 聖美
早いもので今年も残り1ヶ月を切った。振り返ってみると、今年に入ってから11月末までで60ものジョブに携わらせていただいた。1ジョブを3G×6名と換算すると、1000名以上の対象者に会って話を聞いたことになる。
対面で話を聞くことを職業としていると、対象者の息遣いや声のトーンなど、テキストでは表せないニュアンスが気になるようになる。その貴重な情報を、違う空間にいるクライアントにも伝えるべく「テンションが上がる感じがありましたね〜」「あまり気持ちが乗らない感じ?」と声に出して伝えたりもしている。
ちょっと前の新聞の社説に「携帯電話利用者の音声通話離れが進み、1回線当たりの月別平均通話時間は109分」といった記事が載っていた。
1日あたり3分半。これを短いと感じるが、意外と長いと感じるかはそれぞれだと思うが、数年前と比べると確実に減少しているらしい。原因はもちろん、文字通信の普及だろう。仕事、プライベート問わず、話し言葉ではなく、書き言葉で連絡することが格段に増えている。
ここで書き言葉の良さ、文書にすることの良さについて考えてみる。記録が残せること、情報の共有・伝播が容易なこと、熟慮した上で発信ができること、これらが書き言葉の魅力として大きい。
言った言わないという問題を避けるため、多くの人と情報を共有するため、言葉を記しておくことはビジネス上も欠かせない。プライベートでもメールの文面は後で読み返して確認することができるし、転送や同報で複数人で共有することも容易だ。
記録が残せる、情報の共有がしやすいといった点は、書き言葉の特性として不変だろう。一方で、熟慮した上で発信ができるという点については以前と比べ、少し変化がある。ツイッターやライン、チャットなど、比較的思いついたままに、話し言葉の感覚で言葉を発する書き言葉ツールも発達している。
手紙やメールを書き、何度も読み返して推敲するという行動はずいぶん少なくなった。話し言葉の感覚で使える書き言葉は、気軽に使える、感情を表しやすい、といった利点がある一方で、誤解を与える可能性もはらんでおり、取り扱いには注意が必要だ。
では、話し言葉の良さ、会話をすることの良さはなんだろう。相手の反応に応じた臨機応変な対応が可能なこともその良さとしてあるが、最大の良さは発せられた言葉の文字面以上の情報を得ることができることだと思っている。
先月は採用面接に携わる過程でモデレーターの仕事について説明をする機会が多かったのだが、その際に私がモデレーターの仕事の面白さとして挙げたのもこの点だ。たとえば、同じ「いいね」という言葉でも、感嘆がこもった「いいね」と「まあ、いいんじゃない」という合格ライン上の「いいね」では、発せられたときの対象者の姿勢や声のトーンが異なる。
インタビューの様子は書記が記録を取り、ドキュメントとして書面になってもいるが、書面上はどちらも「いいね」であり、そのニュアンスの違いは話し言葉として聞かないとわからない。
そして、その微妙な違いが、商品評価においては評価を分け、実際の行動に繋がるほどの強い意向を獲得できているかの境目になるのだと思う。本当に自分にとっていい商品が目の前に現れたとき、人は言葉にならない言葉を漏らすものだとも思っている。
商品評価のときには肝となる声のトーンに着目しつつ、心から発せられた「いいね」をたくさん聞ける商品の開発のお手伝いを今後もさせていただきたいと望んでいる。