株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 アシスタント・ディレクター 小林祐児
これが最も取り上げられることの多い格差を示す指標である。
たとえば、厚生省の「所得配分調査」は、リタイア後に年金を主な収入源とする年収200万円未満の低所得世帯の構成比率が総務省の調査より高く、ジニ係数が高く出る傾向にある。
資産格差は、所得格差と並んで格差問題で取り上げられることの多い格差であるが、この2つは似ているようで大きく異なる変数である。
賃金格差という場合、主に、非正規雇用者と正規雇用者との賃金格差が話題になることが多い。特に近年、ニートやフリーターが「問題」として取り上げられることが多くなったため、この指標が持ち出されることが多い。賃金格差についての調査としては、総務省による「就業構造基本調査」、厚生労働省による「賃金構造基本統計調査」がある。
上でふれた賃金格差の固定化と大きく関わってくる指標に、社会階層の開放性指標がある。2000年に上梓された佐藤俊樹による『不平等社会日本 さよなら総中流』は、世代間のこの開放性指標を用いて、98年の橘木俊詔『日本の経済格差』と共に、格差社会論ブームの先鞭をつけた著作である。社会学者による10年に1度の「社会階層と社会移動全国調査(略称:SSM調査)」の結果に基づいて、日本が徐々に階層移動しにくい=職業選択の幅が狭い階層社会になっていることを示した。
この開放性は、親が就いていた職業に子が就きやすいかどうかを比率で示す「オッズ比」が国際的にも使われることが多い。その他、「ファイ係数」や安田三郎による開放性係数が知られている。
これまでは、量的に・客観的な立場から把握される指標を見てきたが、格差問題の議論圏には、社会成員の主観的な階層意識を評価する、質的な指標も存在する。その中では、内閣府による「国民生活に関する世論調査」における「生活の程度」項目が代表的指標としてあげられるだろう。
上にざっとみていったように、一言に「格差」といっても、様々な指標がある。さらに上では触れなかったが、教育格差、健康格差なども各種調査によって数量化された指標が存在する。
例えば、最近話題になるトピックの一つに、「シニアの格差」がある。
シニアの格差が大きくなっている、という言葉はしばしば聞かれるところであるが、それもまた「格差」という言葉の曖昧模糊さによってファジーな議論になっていることが多い。
管見の限りでは、様々な機関で行われている「幸福度調査」では、高齢者になるほど幸福度が低くなっていく様子が観察できる。年金や医療体制への不安感が、他世代と比べた時の幸福度の低さに反映されているのだろうか。
上のように見てきたところで、「格差社会・日本」といった物言いにはほとんど情報量が無いことがわかるだろう。調査結果をみる角度と切り取り方によって、さまざまな印象操作が可能なところに、格差社会論の不透明さと議論の進みにくさがある。