株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)
リサーチに、ワークショップ※をつける案件が急増している。これは、「リサーチは調査会社、商品やサービスをワークデザインするのは広告代理店やコンサルティング会社」といった分業の垣根がなくなってきた、とも言えそうである。
先日、親しくしている某クライアント様に「最近リサーチだけでなく、ワークショップもご一緒させていただくことが増えました。」と感謝の気持ちを伝える機会があったが、「こちらこそ、ありがとうございます。」と返礼されて恐縮したひとこまがあった。
彼女は「リサーチは御社、そのデータや気づきのワークのためにお手伝いいただくのはコンサルティング会社となると、これまでのプロセスや調査結果を最初から説明して共有しなければならない。それが面倒。最近はその時間さえ、取れなくて・・。」と、スピーディに商品を上市していかなければ市場に追いついていけないという業界事情に四苦八苦されていた。
さらには「正直、コンサルさんは費用が高い。ワークショップを頼んでも、費用の桁が違うんです。」ということも打ち明けてくれた。
クライアント(依頼側)は、ある領域やブランド、サービスへの理解が深い会社もしくは担当者に、問題解決や役立つ価値創造、アイディアづくりまでワンストップで関わってほしい、のではないだろうか。
「リサーチ&ワークショップ」のパッケージは、質的調査後に設定されることが多い。なぜ、質的調査の後にワークショップを行うことが多いのか。筆者は、2つの背景があると考える。
ひとつは、「ワークショップは、実査終了後に行うラップアップやデブリーフィングの発展・進化系である」という視点。
インタビューの後やMROC(Marketing Research Online Community)のコミュニティを傾聴しているときに、「もう一歩、生活者の気持ちに踏み込んで考えたい。」という衝動にかられたり、「自分ごととして、生活行動に寄り添って理解したい。」という思いが芽生えやすい。
定性調査のフィールドでは、対象者の気持ちや行動に直接触れるため、それらの思考を広げたり深めたりする環境が整っている。クライアント(依頼側)が従来の対象者の発言の読み取りや解釈のすり合わせだけで終わらせるのは勿体ない、情報や気づきを共有するだけでは物足りないと思うのは当然のことではないか。
通常、グループインタビュー終了後やお宅訪問後に対象者の反応や発言を見聞きしたメンバー間でその場で感じたことを振り返ったり、結果の要約や方向性の提案を報告書としてまとめたりしている。また、MROCでは、お題ごとに手がかりとなる発言を摘要して簡単なまとめを行い、雑感や気づきを添えている。
しかし、多くの情報を抱え、よく知っているというだけではもう利益を上げることができない時代になり、リサーチのアウトプットにおいても必要とされる質が変わってきた。
思惑通りには動かない生活者を相手にし、常に新しい発想と社会のニーズをとらえる豊かな社会性が求められる昨今においては、情報や気づきの共有や調査結果の要約・分析だけでは、顧客の問題解決には役に立たないことが多くなってきたのではないだろうか。
とはいえ、生活者の行動データや生声情報が何もない状態で「ワークショップだけ」を行うことには限界がある。なぜならば、「目的意識や問題解決のゴールイメージを共有しにくい」「メンバー間で取り組むテーマの情報量や知識に差がありすぎると対話が成立しない(議論が枯渇しやすい)」「裏付けがないのでワークショップで出たアイディアが実践につかえない(仮説の域を出ない)」ということに陥りやすいからである。
現場から得た気づきや手がかり(肌感覚や共感覚のようなもの)がないと、ワークショップでの創造性をフルに発揮することができず、せっかく出た発想やアイディアにも確信が持てない。
もうひとつは、「実査終了後にクライアント交えてワークショップの実施が増えているのは、MROCの副産物である」という視点。
MROCが日本に上陸し、筆者がMROCに携わるようになってからはや4年たつが、コミュニティ内で語られた膨大な情報量の扱いに困っているリサーチャーやクライアントは多い。
MROCは人数をある程度確保でき、多くの情報量が得られるから、定性データを偏りなく客観視しやすい。よって、既存のクラスターやペルソナの修練、カテゴリーの価値構造やブランドの価値規定の見直し、得られた気づきを新しい軸やワードに置き換える課題に向いている。
クライアントもそのことを理解しつつ、「有益な情報はたくさん集まったけれど、どう扱っていいのか分からない。」「長い期間、膨大な量のコメントを追い続けるのは大変。」などと立ち尽くしているとお聞きした。その解決策として出てきたのが、ワークショップであろう。
関係者全員(リサーチャーもクライアントも)でコミュニティを閲覧し生活者の気持ちや行動に寄り添って、生活者のココロの襞(ひだ)の中に潜む思いを繊細に理解しようというのだ。
生活者の問題を理解しようとすればするほど、考えすぎて迷路や袋小路に陥ってしまうことがあるが、ワークショップ内で考えればそのリスクも小さくできる。「抜け漏れは、他のメンバーが補えばいい」「複数の目でみることで、自分も気づかなかった視点や知恵を見出すことができる」という発想である。
ワークショップの参加メンバーでコミュニティをみながら「コメントの基となる真意や本質は何か」「顧客の問題解決に必要な価値は何か」を探し、「その価値を実現するため、どのように商品やサービスに落とすか」「どのようなコトバでその価値を伝えるか」を創造していく。MROCの後にワークショップを実施するパターンは、今やスタンダードになりつつある。
これらの「質的リサーチ&ワークショップ」の流れは「従来のリサーチの枠組みから外れ、いちマーケターとしてコンサルテーションの役割も担っていかなければ生き残れない」という暗示であり、厳しい世の中になったということをあらわしていそうだ。
ヒット商品やサービスの出にくい時代。ひとつでもふたつでも、創造的な問題解決や新しい価値・アイディアの手がかりが得られるように、リサーチ会社ならではのワークショップの在り方、定性リサーチャーならではのワークショップの進め方(ファシリテーションも含めて)をデザインしていきたいと思っている。
※ワークショップ:何人かで集まってある課題に関して議論をし、ものづくりのアイディアや解決策を出すための場。
メンバーが自発的に参加・体験し、双方向の中で作業や発言を通じて、学びあったり創り出したりする。