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マーケティング・対比思考 第48回"モデレーター"と"ファシリテーター"

2015/02/12

タグ:梅津 順江 ファシリテーター モデレーター

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)

最近、ワークショップにおけるファシリテーションの業務が増えているせいか、次のような質問によく遭遇する。それは、「グループ・インタビューの【モデレーター】と、ワークショップにおける【ファシリテーター】の違いは何ですか?」というもの。一般的に、モデレーター(moderator)は「調停者」「司会者」、ファシリテーター(facilitator)は「援助者」「促進者」などと訳されている。

筆者は決まって、「メンバーにゴールイメージを意識してもらうか、もらわないかです。」と、答えることにしている。なぜならば、「その時々の課題を表出すること」という本質は一緒だが、話し手に考えてもらう手順やプロセスが違うのではないか、と考えるからである。

グループ・インタビューでは、共通点がある人たちに集まってもらうものの、特に決まりごと(ルール)はなく、自由な意見の中で課題に即した声をモデレーターが収集していく。一方、ワークショップでは多くの場合、アレックス・F・オズボーンの「ブレーンストーミングの4原則」を定める。具体的には、ファシリテーターが「批判厳禁」「自由奔放」「まずは質より量」「結合改善の奨励」の4つのルールを守ることを伝えるところからスタートすることが多い。

また、グループ・インタビューではモデレーターが事前に「グループ全体で意見を1つにまとめるような会ではない」ということを伝えるのに対し、ワークショップではゴールイメージや議題を繰り返し提示する。ファシリテーターは、あらゆる方法でゴールイメージを意識させ、周知してもらうことに気を配りながら進行する。

一見、似ているようにみえるモデレーターとファシリテーターではあるが、進行におけるプロセスや意識する内容が異なるのである。これらのようにプロセスの違いはあるものの、筆者は両方の現場を知っている強みをありがたく感じている。

ワークショップでは、型にはまらず自由度の高いファシリテーションをすることができる。たとえば、「批判厳禁」というルールを提示しても、批判的でネガティブな意見が出ることはある。そんな時、ルールを徹底して守らせるというやり方もあるかもしれないが、モデレーター経験のある筆者は「その意見も貴重な意見ですね。それを違う角度やプラスに転じて考えることはできないでしょうか。」と違う視点で考えることを促してみる。

また、非協力的な態度を見せている人がいたら、「確信が持てないから言えないでいるのだな。」と察し、「正解を言う場ではない。」ことを伝え、意見を言いやすいきっかけづくり(声かけ)を心がける。この時、なるべく「自分や自分たちのグループのことを気にかけてくれているんだな。」と思わせる言い方をするのがコツなのである。


グループ・インタビューでは、単調な展開が続いたり、間延びして退屈な印象になってきた時に、メリハリをつけるためにワークショップのテクニックをアドリブ的に用いる。たとえば、「今日はグループ全体で意見を1つにまとめるような会ではないのですが、これだけは皆さんで答えを出してください。10分間でお願いします。」と、ワークショップのようにあえてテーマを与え、付箋やペンを渡して自由にディスカッションしてもらう。

その時、モデレーターはタイムキーパー役や書記係に徹するのがポイント。時には、離席する場合もある。部分的にワークショップ形式を取り入れるだけで、限られた時間内に自分たちなりの方向を示さなければならないというプレッシャーと緊張感がいい方向に作用し、軽快なテンポで話し合いが展開する。

調査関係者がいなくなったという安堵感から、本音がポロリと出ることもある。場が引き締まったところで、この方向をどういう経緯で導き出したのかを深掘りしていくと、自分たちの考えを熱を込めて力強く説明してくれることが多い。



両方を経験していることが肥やしとなっていて、各々の現場で活かせることが多い反面、迷うことも多い。たとえば、ワークショップにおける思考の促し方。ゴールを意識すればするほど、思考フレームを提示し、それをヒントに考えてもらうことを要する。

しかし、バイアスをかけずにフラットに聴くモデレーターのスタンスが身についている筆者は、枠を定めることが果たして良いのか、という疑問に度々ぶち当たる。思考を限定することにつながるのではないか、フレーム以外の発見や広がりが見いだせないのではないか、という葛藤である。


しかし、企業がモデレーターにアクションにつながる価値探索やアイデア提案を具体的に求めるようになってきている昨今、バイアスをかけないという従来のリサーチにおけるモデレーションの考え方自体、制約のひとつであるといえそうだ。いったん、そちら側の枠組みを外れ、思考のきっかけづくりや刺激材料としてフレームワークを用いることは有効な手段のひとつではないか、と思うようになっている。

モデレーターとファシリテーターは進行におけるプロセスや意識させる視点が異なるが、「問題解決や仮説検証のため、もしくは課題発見のために情報を集めて、商品やサービスに役立てる」という目的は一緒である。

また、異なる2つの思考やプロセスはどちらにも応用できる。そのため、両者のスタンスや視点を共存させながら、その場その場で臨機応変にどちらの思考プロセスで対応するのか、を選択していけばいいと思う。

モデレーターとファシリテーターの役割を使い分ける技術は難しくはあるが、ひとつでもふたつでも問題解決や課題発見の手がかりが得られるように、その都度、考え抜いていきたい。そのために日々の現場の中で経験を重ねて、修練していけたらと思っている。