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リサーチ道場 第29回「普及を阻害するもの、促すもの」

2015/02/13

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文

マーケティング・リサーチのテーマとして、「ポテンシャルはあると思われるのに、今一つ普及に弾みがつかない商材」があり、「何がポトルネックになっているか?」を探るケースは多くなっています。

もちろん、課題は多彩であり、必ずしも商材そのものやプロモーションだけでは解決できない課題も存在するのが実情です。一例をあげると、製薬業界では「薬事法上、その効能は謳えない…」といった話は実に日常的な話でしょう。

ただ、ボトルネックとなっている法律や制度が改正され、ハードルが消えたとしても、それだけではターゲット層はすぐに行動しません。例えば、「ジェネリック医薬品」が承認されたと言ってもすぐに手を出したりはしません。今回はそういった、消費者の立場での「普及を阻害するもの、促すもの」を見ていきたいと思います。



●ブレークに13年…MVNO市場


2014年には「3大キャリア(ドコモ、au、ソフトバンク)以外で携帯電話の契約ができる」…という【MVNO】が相次いでサービス開始やプロモーションを強化し、脚光を浴びました。

いわゆる「格安SIM」などと言われるものであり、携帯電話の回線契約を3大キャリア以外の色々な会社から選べるサービスです。

歴史を紐解くと、MVNO実施第一号は2001年の日本通信「b-mobile(ビーモバイル)」までさかのぼり、仮に2014年をブレークの年と定めると、実に普及に13年もかかっています。(まだブレークしていない…という方もいますので、そうすると14年以上でしょうか。)


もちろん、3大キャリアにとっては競合を増やすことになりますので、どの程度協力的だったのか?という点もハードルの高さに影響するので一概には言えませんが、「制度が変われば普及する」というほど単純ではないことがここからも分かります。

現実的に「法律や制度」がボトルネックになることはあっても、それが解消されても普及に弾みがつかない事例は多いようです。業界裏事情もあるとは思いますが、我々の視点は消費者を起点としているので、「消費者側のボトルネック」について考えて行きたいと思います。


●ボトルネック解消の3ステップ

消費者側のボトルネック解消には大きく分けて以下の3ステップが存在しています。

(1)きかけ・動機
(2)自社・自ブランドを選んでもらう理由づくり
(3)不安の解消


(1)きっかけ・動機

当たり前の話ですが、「知らないもの」は買いません。
知っていても「よく分からない」と前を通り過ぎてしまいます。
そして、「タイミング」によっても要不用は変わります。

「特徴が分かって、適切なタイミングに接して、魅力を感じて」ようやく人は動き始めます。
先の例で言うと、MVNOは長くここで苦戦していました。今でもそうかもしれません。

初期の「b-mobile」(ビーモバイル)は、「外でPCのインターネットを利用したい」というニーズに向けたサービスでして、その当時は「AirH"(エアエッジ)」が一番現実的な選択肢でした。

しかし、私の経験では「(当時の)AirH"はちょっと高すぎるな…たまに使いたいだけなんだけど月に1万円近くも払えない…」という状況でした。Webでさんざん探して「b-mobile」を発見する、家電量販店などに行って隅っこの方にあるものを見て初めて気が付く、というブランドとの出会いでした。

「「b-mobile」?こんなサービス初めて見たぞ…、大体「一括で支払う」って意味が分からない、普通は月額だろ?結局得なのか、損なのか?」…そういった混乱をした記憶があります。

「知名度の低さ」や、「サービスの分かりにくさ」、「適切なタイミングで訴求できないこと」は初期の普及を妨げる主要な要因となります。


MVNOではありませんが、他の通信サービスの「UQWiMAX」が、キャラクターにガチャピンとムックを採用し、出稿量の多さも相まって「知名度のなさ」を突破したのは印象的でした。電車の交通広告で見た「速度制限なし!」といったコピーが今でも記憶に残っています。

まずは、カスタマージャーニー初期の「○○で困った」という経験をしそうなタイミングで「出会いのきっかけ」を作り、「特徴を伝達」し、「魅力を感じてもらう」…この部分を「ターゲット層の動線上に作れているかどうか?」を疑ってみてください。

ターゲット層はいつ、どこで、どのようにこの商品・サービスと出会うのでしょうか?



(2)自社・自ブランドを選ぶ理由づくり


ターゲット層が「数ある商品・サービスの中から自社を選ぶ理由」はなんでしょうか?
実にあたりまえの話ですが、この理由がないと話になりません。

余程他社に比べたアドバンテージがあれば説明不要かもしれません。しかし、そこまで突き抜けた商品もそう多くはないでしょう。実際には特徴・差別性はあってもやや分かりにくいものです。

冷蔵庫の例として、【野菜室】が真ん中にあるという製品特徴があります。「なぜ冷蔵庫の【野菜室】が真ん中にあるのか?」について、「使用頻度の高い【野菜室】が中央にあると日々のキッチンでの動きが楽、腰を痛めにくい」ということが伝えられれば選択の理由となり、自社の強み・差別性になります。

しかし、ただ「真ん中」というだけでは、「だから何?」と感じられてしまいます。

【参考事例】 東芝 冷蔵庫「ベジータ」 (ただ真ん中というだけではなく、表現の工夫が見られます)


また、「価格やスペックが優れている」だけが売りではありません。安心感であったり、いざという時にサポートがしっかりしていたり、対応しするスタッフが丁寧で自分のニーズをきちんと把握してくれたり、口コミなどで評判が良かったり…と「価格やスペックでは語れない面」も含め幅広く検討して下さい。


すぐに作れるものではありませんが、ブランドの持つストーリー性が共感・憧れを生み出すこともあります。お酒、腕時計といった嗜好品は逸話が実に楽しい分野となっています。(IT機器ではアップル社の創業話なども面白いと感じます。)

ハミルトン・ベンチュラ※)」は1957年に「世界初のエレクトロニックウォッチ」として生まれ、「エレクトロニックウォッチならでは」の形を求め、円形ではないデザイン(左右非対称のフィン型)をしています。そして、エルビス・プレスリーの着用など、マネのしようがない差別性を生み出し、現代まで続くブランドとなっています。

今ではエレクトロニックウォッチ(クォーツ時計)は星の数ほどありますので、その土俵で戦うのは圧倒的に不利です。そこで、ストーリー性を訴求することで大きな差別性となります。


顧客視点で物事を見る上で重要なのが、「顧客(ターゲット層)は緻密に競合製品を調べて自分で一覧表を作って優劣を比べることはあまりしない…という認識です。

「印象に残ったから」「納得感があったから」というやや情緒的な理由でブランド・商品を決定することがあります。その場合、「印象に残ったのはなぜか?」「説明のどの部分だったのか?」というのを探り出してください。記憶はどうしても曖昧になりますので、リサーチの工夫のしどころです。


また、特に「最初に魅力的と感じる理由」と、「後でジワジワ後押ししてくれる理由」は異なることも多く、最初に出すべき情報と、後で伝えるべき情報を整理した方が良いと言えます。

「ハミルトン・ベンチュラ」は、最初に「エレクトロニックウォッチ」と聞くと時計好きには「つまらない時計」に思えますが、独特のデザインを見て、逸話を聞いて、「1957年に生まれた世界で最初のエレクトロニックウォッチ」と言われると、全く印象が異なります。



(3)不安の解消

商品と出会って最初のうちは「魅力点」だけが目に付き、「不安感」は心の中で大人しくしていたりします。(魅力的な異性に初めて出会った頃のようですね…(以下略)。)

しかし、「実際に買ったらどうなのか?」「もし、気にいらなかったら?」「使いこなせなかったら?」「すぐに新型が出て型落ちになったりしないか?」など段々と不安が頭をもたげてきます

この不安感との戦いに負けて「購入されずに終わる」のは仕方のないケースもあります。

食品や飲料なら、パッケージ裏面を見て成分などをチェックしたりします。食品アレルギー体質の方では「アレルゲンを含有しているかどうか」の確認は必須でしょうし、私は個人的に「キシリトールにあわない体質」ですので、キシリトール入りのものは購入しないようにしています。このように「成分が身体に合わない」といった理由は覆しがたいものです。


しかし、不安感を解消し形勢逆転できるケースもあります。内容によっては保障・保険・スタッフの対応などでカバーできたり、使い方の工夫で乗り切れることもあります。

携帯電話で言えば、キャリアの乗り換えで「メールアドレスが変わり、知り合いに知らせる必要がある」という大きな不安要素があります。あれは、とにかく面倒で憂鬱なものです。
しかし、実際にはLINE、FACEBOOK、SMSで連絡している方が多かったり、定型文を作ってコピーペーストしてメールするだけであったりします。

「そうですよね、お手数おかけしてしまい恐縮です。みなさんメアド変更の連絡は大変なようです。でも先日のお客さんはeメールで連絡する人が意外と少なく、20分くらいで終わったそうですよ。」と共感しつつyes-but法で返してみるなど、不安感を減じることで、ある程度解消可能です。


「価格が高い」という不安(不満?)を「一日あたりコーヒー一杯位の価格ですよ。」といって比較対象をすり替えるのは詐欺的で有名なテクニックです(笑)。

それはやり過ぎとしても、「このエコ家電を買えば毎月いくら位の電気代の節約になります!」というの訴求は家電の常套手段です。「電気代の節約」高い買い物をする理由をターゲット層に与えて、不安を減じることになります。


「どういった不安があるのか」をリサーチなどで探りだし、「どうすればその不安を解消できるのか?」、もし本質的には解消していなくても「どうすれば気にならなくなるのか?」というあたりを色々な角度で検討して下さい。


真っ向から「不安解消」に取り組んでいる事例としては、「家庭用蓄電池のレンタルサービス」があります。これは太陽光発電パネルとあわせて導入するような製品ですが、「太陽光パネルは20年以上など長期間もちそうだけど、蓄電池なんてどうせ10年などもう少し短い期間で傷んで使えなくなるのに、買うなんて本当に大丈夫なの?」という不安を払拭しています。
(蓄電池はまさにこれからの普及が望まれる製品です。知名度など初期の課題は多数ありそうですが。)


人的対応が可能であれば「分からないことがあれば、お電話ください。」あるいは、「有償サービスがあります。」といって手厚いサポートまで販売してしまう方法もあります。
自動車では、「メンテナンスパック」、「サービスパック」といったアフターサービスを有償で提供することもあります。

そして、口コミサイトには色々なうわさが飛び交います。いわれのない悪評、誤解に対しては一貫して姿勢を曲げず、自社のスタンスを示し続けることも大事です。

不安があることは、離脱にも、リピートにもつながる分岐点であり、やり方一つでどちらにも変わることを忘れないでください。


●普及を促す


このように「普及を妨げる要素」はステップごとに存在します。リサーチでそれを見出し、ターゲット層の視点で差別化ポイントを抽出し、ターゲット層に刺さる表現に変換、後は「顧客の体験するストーリー」を意識して実際に伝えて行く作業となります。見出された内容によっては商品自体の改良も必要となるでしょう。

実に地味な作業ですが、ボトルネックは多数存在し、余程運がよくない限りはどこかで躓いてしまうものです。そういったボトルネックを見つけ出し、普及を妨げる要因を除去していくことで、自ブランドを一回り大きな商品・サービスに育て上げて頂くことを、我々も影ながら応援させて頂いています。


※)筆者はハミルトン・ベンチュラユーザーであり、かなりひいき目で申し訳ありません。




2015/02/13

category:リサーチ道場
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