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マーケティング・対比思考 第49回"捨てる"と"捨てない"

2015/03/26

タグ:梅津 順江 捨てる 断捨離

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)


「日本の消費者は、モノを買わなくなった」と言われて久しい。
では、「なぜ、買わないのだろう?」、「きっかけさえあれば、買うのだろうか?」。このような議論を一度はしたことがあるのではなかろうか。いや、もしかすると一度だけではないかもしれない。

「■■ブランドの不調要因を探りたい」、「若者の●●離れの実態を知りたい」、「シニア向けの商品が売れないのはなぜか」など、企業がリサーチ会社へ相談、もしくは依頼する課題(問題意識)の半分程度は買わない消費者の実態や要因を探るというものである。

消費者がモノを買わない理由は、以下の4つが考えられる。

(1)単純に、買いたいと思うものがない

(2)この先の収入が増える見込みがないからモノを買わない。

(3)あらゆる情報が溢れかえっているため、消費者が「情報過多で何を買っていいのか分からない」
  「口コミサイトも、やらせ投稿っぽいものがあって何を信じていいか分からない」と情報に
  攪乱され、困惑・疲労して意思決定が鈍る

(4)捨てるのにもお金がかかる時代なので、モノを買うこと、不要なモノを所有することへの
   罪悪感や抵抗感が増している。

本稿では、4つ目に着目したい。モノを消費することへの罪悪感や抵抗感があることも、買わない理由のひとつではないかと思う。消費者は、捨てることを考えて、商品・サービス購入の吟味をして買うか買わないかをジャッジする、そんな時代になったのである。


昨今、インタビューやホームビジットの際、消費行動を買うか・買わないかという購買行動からだけでなく、捨てる(廃棄や断捨離)・捨てない(所有物や使い方、継続利用や愛着度)からもアプローチする視点をもつようにしている。事例として、2014年11月末に実施した「エスノ視点でシニアの実情をみる」という自主企画を紹介する。


■61〜69歳のいわゆる団塊世代前後の方の協力を得て、6名のお宅訪問を行なった。
■調査課題は「現在の生活と変化、交流実態を把握する」「地縁コミュニティを明らかにして、
  新たな活動機会や消費の糸口を探る」というもの。


この世代の方々は、質素で堅実な消費傾向がある。これまでの買い物経験から消費選択や行動が賢くなっており、「無駄なモノは買わないようにしている」「モノを増やしたくない」「贅沢はしない」とおっしゃる。

まず、「普段、何を買っていますか」「買い続けているモノは何ですか」というお決まりの質問を投げかけた。6名とも「昔から・・」という言葉から話し始めた。使い慣れたモノや定評があるモノが安心という理由で「昔から使っているモノ」「昔から名が知れているモノ」という保守的な選択傾向があった。

この話で終わってしまっては、予測の範囲しか把握できなかったことになるため、次に「最近、生活が変わって買ったもの、使い始めたものは何ですか」という消費につながりそうな生活の変化や行動のきっかけを聞く。すると「夫婦2人、もしくは1人(夫の逝去や離婚など)になって」「夫がリタイアして」「孫の誕生や成長」「自分や家族(親や配偶者)の病気や介護」など、さまざまな多くの転機・タイミングが挙がった。

生活の変化(家族単位の縮小、引っ越しなど)や自分や家族の病気をきっかけに始まる行動のひとつに「断捨離」が挙がったので、「いつ、何を捨てたか」を聞いてみた。

すると「夫が亡くなってから引っ越した。夫の衣類や趣味の音楽関係まわり(アンプなど)は処分した」「夫婦2人になったので和食が増えた。鍋を小さくした」「子供がいなくなってから将来に備えてリフォームをした。ついでに片づけた。洋服はかなり捨てた。鏡台も廃棄した」「自分が病気してからいつ逝ってもいいように服を捨てた」など、断捨離の内容を知ることができた。

ここから、「衣類」「自分以外のモノ」は簡単に捨てられているという実態が分かった。

さらには、断捨離の深掘りをした。部屋全体はすっきりと片付いてはいたが、実用品だけが残っているわけではない。死蔵品が眠っているはず、というニオイをかぎ取り、「捨てずにとってあるモノ」「今は使っていないけれどまだあるモノ」「捨てられないモノ」を尋ねた。すると、使っていないのに捨てていないものが次から次へと出てきたのである。

-キッチン上の収納庫に「使わなくなったホットプレート」
-寝室には「今はゴミと思っている百科事典」がずらり
-押入れには「アルバムの束(整理途中の段階のモノもあった)」
-ダイニングの戸棚には「こけしのコレクター(ガラクタ?)」
-2人用の鍋を買っても「大きな鍋」は処分しないで置いてある (実際は「買い替え」ではなく「買い足し」だった)
-用のなくなった「子育て期(体育着など)に活躍した乾燥機」
-「商店街が賑やかだった頃の祭りの写真」「昔の教え子と写っている写真」がセピア色に変わり果てても飾ってある
-「まだ使える娘のピアノ」がリビングを占領している   など。

今は使っていなくても、子育て中に時間をともにした家具や家電、家族で使っていた調理器具や食器、没入経験のある趣味のモノは想い出の一品として大事にしまい込んでいたり、飾ってあったり、捨てられずに置いてあった。

つまり、「家族や友人、地域の想い出」「自分の生きてきた証、頑張ってきた歴史」「過去の没入経験」は捨てられないということなのである。

このホームビジットから、「愛着が持てる、想い出になり得るコト・モノを意識した商品化は有効ではないか」と言える。また、リメイクサービスの可能性も感じられる。

今回の自主調査で、「捨てる」行動に注目することにより、それを補充するビジネス機会がみえた。また、「捨てない」行動に注目すれば、それを応援するビジネス機会があるのではないか、ということもわかった。

「モノ」の意味を、「コト(経験)」「本人の歴史や時代背景」「人(家族他)」「場(地域、想い出の旅行先)」とつなげて考えると、新たな消費の手がかりがみえる。これらの関係を分析視点を持って、観察したりインタビューしたりしながら紡いでいくことが、Cohort(コーホート)※の分析にも結びつく。

行き詰まっている経済を新たな消費行動でみると、新たな気づきが得れる。消費に保守的な彼らがお金を投じてくれる可能性はまだまだありそうではないか。



※Cohort(コーホート):ある時点において年齢や性別などの共通の属性をもつ人口群をさす人口学上の用語。