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ワークショップ事始め 第1回 「なぜ、ワークショップをするのか?」

2015/05/27

タグ:梅津 順江 ワークショップ

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)

新連載をはじめます。筆者が、「ワークショップ」の登載をはじめようと思った動機は2つあります。
1つは「たまってきたワークショップの知見を周囲に共有したい」、もう一つは、「マーケターもしくはリサーチャーの視点でワークショップの可能性を考察したい」と思ったことです。

普段おつき合いのある企業のマーケターやリサーチャー(社内含め)に「ワークショップの有用性」を知ってもらうことで、商品・サービスのアイディア開発及び問題解決につながるヒントがより広がるのではないか、と感じています。

なお、「ワークショップ」とは、参加者全員が自発的に対話や体験をし合える環境(場)を整え、ファシリテーターと呼ばれる進行役を中心に、双方向的な学びや創造、問題解決やトレーニングのために行うスタイルのことです。

筆者は、今年4月から「特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会(以下略:FAJ)」に入会しました。先のマーケティング・対比思考 第45回"質的リサーチ"と"ワークショップ"でも取り上げましたが、昨今質的調査とワークショップを組わせるケースが増えています。

FAJの定例会で実践を繰り返したり、イベント・セミナーに参加したりすることで、実務の中で「これでいいのだろうか?」とモヤモヤと生じていた疑問や悩みが、少しずつではありますが解けています。何よりも、そこに参画している聡明で情熱的な会員の皆様から多くの刺激を得ることが、楽しくて仕方がありません。様々な理由で、会員になって良かったと実感しています。


前置きはこのくらいにして、本題に入ります。

第1回目は、そもそも「なぜ、ワークショップをするのか?」について、考察します。
この解を教科書的に述べると、「異なる分野や思考を持つ人と対話する場をもつことによって、問題解決や合意形成に役立てたり、自己表現力を養ったり、学習効果を促したり、新しいソリューションを生み出すことを期待したりするために行う」となります。

図1は、中野民夫著「ワークショップ-新しい学びと創造の場-(岩波新書)」をもとに筆者がアレンジを加えたもので、「ワークショップの目的による分類」です。

個人の内的な変容や成長に向かう「内的方向」×社会を変革しようという「外的方向」の横軸と、何かを実際に創り出し成果を重視する「創造的方向」×体験によって感じたり学習によって理解したりする「学習的方向」の縦軸とを掛け合わせています。

4つに分類されてはいるものの、各々は流動的に行き来します。学習目的のワークショップが何か新しいものを創造することがあったり、逆に何かを創造することに取り組む中で学びがあったりします。また個人に焦点をあてたものが個人を取り巻く社会環境の変革に向かったり、逆に社会問題に取り組んでいるうちに個人の内的な問題が浮上したりすることもあります。

ですから、4つに分断されているのではなく、「個人×社会」「創造×学習」とも互いに深く関係しあっていて、ワーク如何によってはいつでも縦横無尽に影響しあって、越境していくイメージです。
        
ワークショップの目的による分類.jpg

図1の軸にそって、様々な領域のワークショップを配置したものが図2です。中野氏は簡単にまとめられるものではないとしながらも、7つに大別しています。右上の第1象限には、住民が参加して合意形成による政策づくりなどを行う「まちづくり系」が属します。

左上の第2象限には、演劇や美術、音楽、工芸などの自己表現を行う「アート系」、左下の第3象限には、自己成長や人間関係などを学ぶ「精神世界系」、右下の第4象限には、野外教育やエコ活動などを学ぶ「自然・環境系」が当てはまります。

4象限の真ん中には、企業ビジネス研修や学校教育、生涯学習などの「教育・学習系」、右側の第1象限と第4象限の真ん中には、平和・人権教育や国際理解教育などの「社会変革系」が位置します。

この分類からも、専門領域やテーマによって「なぜ、ワークショップをするのか?」という目的は異なるということが分かります。例えば、まちづくりに代表される社会的な活動では「合意形成を図るため」、芸術活動の分野においては「自己表現力を養うため」といった具合です。
            
ワークショップの目的による分類×専門領域.jpg


では、ビジネスにおいては、どうでしょうか。筆者は図1の「ワークショップの目的による分類」上に、マーケティング領域で行うことの多いワークショップを配置してみました(図3)。

左下の第3象限には「ペルソナやカスタマージャーニーマップによって得られる顧客理解」を配しました。左上の第2象限では、第3象限の顧客経験に基づいて「デザインコンセプト(基本的な考え方を可視化する)」「クリエイティブブリーフ(構成要素に基づいて広告の設計図を描く)」をスタディします。

右下の第4象限には「SWOT・3C・4Pなどのフレームワークを用いて分析を行い、社会的ゴールを理解」を挙げています。右上の第1象限では、第4象限を受けて「ブランディングの再構築」「事業プランの改善」をワークします。

マーケティング内においても、領域によって「なぜ、ワークショップをするのか?」という理由は異なるのです。
         
ワークショップの目的による分類×マーケティング.jpg


先日参加したFAJ東京支部5月の定例会の中にも「なぜ、ワークショップをするのか?」のヒントがありました。

筆者は「プロファシリテーターのワザとココロ(ファシリテーター堀公俊氏)」のなかで、「ワークショップを実施する意味」や「ファシリテーションをする意味」について考えさせられました。
このときのゴールは『一人ひとりが目指すプロファシリテーター像を明らかにする』で、その中に『あなたは、ファシリテーションをどんな分野のどんな目的のために使おうとしていますか? それはユニークなものでしょうか?』というワークがありました。

ファシリテーターのカリスマでもある堀公俊さんは、以下の大事な基本的な思考を繰り返し、「技法にこだわり過ぎると、絵空事に聞こえてしまう、もしくは浮世離れしてしまう懸念がある」と警告しました。

ファシリテーション.gif

この個人ワークで、筆者は「企業の商品・サービス開発のため。企業への一歩踏み込んだ場の提案は、リサーチ業界の新たな流れでもあるからユニーク」と記しました。考えを文字に書いて整理することで「リサーチも、インタビューも、ファシリテーションも全て手段である」ということを改めて、痛感しました。
また、このワーク体験によって、自分のモデレーターやファシリテーターとしてのスタンスを見つめ直したり、反省したりするきっかけにもなりました。


調査することやワークショップの場を設けることは「商品開発やサービス向上のためにどのようなアイディアや施策を考えればいいのか」というヒントを得るための一助でしかありません。これからも「常に、マーケティング目的を見失わないこと」「携わる領域の知識を学び専門性を磨くこと」といった基本を忘れずに、ファシリテーションに臨んでいこうと思いました。



【お知らせ】
このたび、わたくし梅津順江は、「この1冊ですべてわかる 心理マーケティングの基本」を日本実業出版社から出版させていただきました。

本書は、生活者の心理を理解するための術を結集させたものです。どのように『みて』、どのように『きいて』いったらいいのか、という手がかりの第一歩となる生活者への接し方を解説しています。また、リサーチ(特に定性調査)の現場で得た気づきや発見をどのように『感じて』、どのように活かしていったらよいか、を体系的にまとめました。

市場が激変する中、生活者の意識と変化をどのようにしたら掴むことができるのか、といったヒントになればと思っています。もしご覧いただけましたら、本書の内容に関してご指摘、ご意見をいただけましたら幸いです。
          
心理マーケティングの基本.jpg