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リサーチャーのつぶやき 第46回「ライブラリー&カフェ」訪問

2015/05/27

タグ:吉田 聖美 佐賀県武雄市図書館 ブック&カフェ

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 シニア・ディレクター インタビュアー 吉田 聖美

少し前の話になってしまうが、ゴールデンウィークに実家に帰省し、近くにある佐賀県武雄市図書館に行ってきた。2年前にリニューアルオープンしたときにニュースに取り上げられ、話題になっていたこともあり、一度行ってみたいと思っていた施設。念願の訪問となった。

ご存知の方もいらっしゃるかと思うが、この施設、最大の特徴は一地方都市の公立図書館が、TSUTAYA事業を行っている株式会社カルチュア・コンビニエンス・クラブを指定運営会社として、図書館と書籍・雑誌販売、音楽・映像ソフトレンタルが共存する「おしゃれな」スポットとして生まれ変わったという点である。

ちなみに、この図書館が存在する武雄市は県民が80万人しかいない佐賀県の中でもさほど大きくはない人口5万人の市です。その市における一施設でありながら、年間来場者数が2014年度80万人を超えているという点でも特徴的な施設だと思われる。

ゴールデンウィーク中の5月4日の午後に行ったのだが、図書館の駐車場は満車で、隣にある歴史資料館の駐車場に車をとめることとなった。歩いて図書館の入り口まで向かう途中、エントランスに繋がる道ではゴールデンウィークということもあって、地元の食材を扱うお店がマルシェを開催していた。

その小道を通り過ぎて目に入ってくるのはたくさんの人がオープンテラスでコーヒーを飲みながら本を読んでいる様子。近年多くなってきたブック&カフェの形態だが、地元で見るとは思わなかった。しかも、ここは市の図書館。

中に入ると広々としたウッド調のおしゃれな空間が目に入ってくる。吹き抜けになっていて天井が高く、開放的な空間だ。入口近くには書店スペースがあり、新刊や雑誌が並ぶ。入ってすぐの小部屋になった空間には音楽、映像ソフトが並ぶスペースもある。


奥に進むと適度に区切られた小部屋のようなスペースがいくつかあり、落ち着く構造になっている。
本を読むときなどはそうだと思うが、あまりにも広い空間に投げ出されてしまうと落ち着かないことが多い。一定の高さまでは本棚で囲われているが、その上は吹き抜けになっている空間は、籠る感覚を与えてくれつつ、閉塞感はない。他の人の気配をかすかに感じつつ、自分の世界に浸れる気がした。

あちこちに椅子があり座って本が読める、椅子の数が多いので自分だけが占領しているという罪悪感を持たなくて良い、といった配慮も有りがたいし、図書館空間に音楽が流れており、いわゆる「シーンとした」図書館でない点も斬新だと感じた。適度な音がある方が読書や仕事、勉強にも集中できるという人も多いことや、子連れの場合はあまりにも静かだとその空間に入ること自体を躊躇する、という意味でも良い試みだと思う。

もちろん、こういった試みを「図書館らしくない」「ブックカフェだ」と批判する声もあるようだが、個人的には2階には無音で閉じられた空間である学習室があることで図書館らしさは保てている気がする。
同じ仕事や勉強をするスペースでも閉じられた学習室とオープンなカウンター席があることはそのときに応じた選択が出来そうで魅力とも感じた。

唯一、少しだけ不便を感じたのは、高さがある本棚(自分の身長よりもはるかに高い)が多いのだが、上の方にある本はどうやってとれば良いのだろう、そのあたりの説明がわかりやすくどこかにあれば良いのにな、と思ったことくらいだ。

仕掛け人である前武雄市長の樋渡氏の『沸騰!図書館』という本を読んだのだが、樋渡氏がこだわったのは「スターバックスを誘致」ということでもあったらしい。最近鳥取県に進出し、全県出店を果たしたと話題になっているスターバックスだが、佐賀県には現状でも6店舗しか存在しておらず、ショッピングタウンやサービスエリアが出店の中心である。

書籍には「図書館の雰囲気的にスターバックスしかない」「しかも話題性がある」ということが誘致理由として書かれていたが、それ以上に「スターバックスが併設した図書館」の「わかりやすさ」はニュース性に一役かったのだと思う。

武雄市図書館を説明するとしたら、少なくとも地元においては、「蔦屋書店のような図書館」よりも「スターバックスを飲みながら本が読める図書館」の方がピンとくる人が多い。スターバックスに行ったことはなくても何となくおしゃれなイメージは持っていたりする。「TSUTAYAが一緒になった図書館」でも良いのだが、それだと利便性は伝わるが、武雄市図書館が持っている雰囲気は伝わらない。

武雄市図書館のケースを見ていると「新しさ」は「今あるものと今あるもの」「性質的に一見相反すると思われるもの」「掛け合わせ」から生まれることも多い、ということを改めて感じる。

図書館×カフェだけでなく、静粛な空気×音楽であったり、吹き抜け×視界を遮る棚であったり、一見すると別空間でしか存在しなさそうな要素が、一つの建物の中で合わさっていることこそが人の心を掴むのだと思う。「わかりやすさ」という意味でも、人は全く新しいものは未知のものとして警戒を持ちがちだが、知っているものの掛け合わせは、「警戒せずに試すことができる新しさ」を提供してもいるのだ。


余談だが、この間、何かの話をしているときに「ブック&カフェの形態って、飲み物をこぼして本がダメになったりしないのかな」という話になったのだが、武雄市図書館の場合、リニューアルオープン後1年間で本の破損はほぼゼロ、物販用の本が汚れてしまったのも7冊のみ、と記載されていた。自由に読んで良いですよ、と言われると、キレイな状態で返さなきゃという気持ちも生まれるのかもしれない。

「自由と規律」これも相反するが、人が求める要素の1つだと思う。