株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)
第1回「なぜ、ワークショップをするのか?」でワークショップの目的について触れましたが、「ワークショップの目的」がはっきりしたら、実際のワークショップの参加者を募ります。ワークショップは、この参加者を集める段階から始まっています。
【ビジネスにおけるワークショップ】の現場では、ファシリテーターと主要スタッフとの間で、誰と誰とを同じチームにするかについて、事前のすり合わせを念入りに行い、そこに時間や労力を要します。
プロジェクトスタッフが事前に行っているやりとりは、以下のような具合です。
【ビジネスにおけるワークショップ】の場合、参加者やグループを事前にセレクトしたりコントロールしたりできるのです。
もちろん、ランダムに構成されたチームで活発な議論が行われ、有意義な結果を導きだされるという場合、また事前に決めたチームなのに(決められていたばかりに?)突飛なワークが出にくかったということも稀にありますが、筆者は「チームメンバーはランダム性ではなく、予め決めておいた方が失敗は少ない」と考えます。
ビジネスにおけるワークショップの比較として、【リサーチ目的のフォーカス・グループ・インタビュー】と【まちづくりのためのワークショップ】の2つの事例を紹介します。
【リサーチ目的のフォーカス・グループ・インタビュー】の場合、対象者条件に合った者を無作為に抽出するのが一般的です。
ある程度の同質性の担保とサンプリングバイアス(偏り・誤差による影響)を避けるべく、「男女は一緒のグループにいれない」「同グループ内の年齢幅は10〜15才以内が望ましい」「情報量が異なるユーザーとノンユーザーは一緒にいれない」などグループ設定条件の際に留意する点はあるものの、基本的にはどんなヒストリーを持ったどんな性格の人がくるか、知りません。
どのような展開になるのかは未知であり、実際にはその時にならないと分からないのです。とはいえ、そもそもそれらを調べることが目的であって合意形成が目的ではないので、ランダムであっても問題にはなりません。
もうひとつ、筆者が先日参加した【まちづくりのワークショップ】の苦労話を紹介します。チームメンバーは地域外の私の他、地域に通う小学5,6年生、商店街の方、その地域に住む主婦、自治会の方、大学教授などフィールドの異なる方々でした。最初に行ったアウトプットのすり合わせや役割分担を決めるところから議論が難航しました。各々の前提条件(あたりまえの価値)や着地点(向かう方向)が多様過ぎたのです。
1日のワークだけでは何ともならず、平行線のまま時間が過ぎていくという苦い経験をしました。普段ビジネスにおけるワークショップでは考えられないような事態に陥り、合意形成や共通理解のむずかしさを実感しました。
「まちづくりのワークショップでは、チームビルディング(仲間が思いを一つにして、一つのゴールへ向かって進んで行ける組織づくり)に何日も時間をかける」ということを聞いたことがありましたが、実際に体験してみて「温める時間と場をじっくり取らないと、とうてい無理」ということを、身をもって納得しました。
さて、【ビジネスにおけるワークショップ】では、2つの事例と異なり、予め誰がメンバーとして参加するのかが分かっています。ですので、チーム分けは、単なるくじ引きではなく、初期段階から携わっているプロジェクトスタッフの意思を反映させた方が、円滑かつ活発に議論が白熱することが多いように思います。
ワールドカフェ形式で、途中ホスト以外が他のテーブルへ移動し、そこのテーブルのホストから前の議論の内容を聞いてからさらに議論を深める場合でも、【ビジネスにおけるワークショップ】では、最初の議論と最後のまとめを行うチーム編成は事前にしておいた方が、利点が多いと感じています。
「同じ会社や部署の者を同じチームにいれない」「積極的に意見をいうタイプの者をできるだけ散らす」といった配慮を予めしておくことができます。チームのメンバーは可能な限り、多様な人から構成することで相互に創発し、学び合いが起こるからです。特に、【ビジネスにおけるワークショップ】では、各部署の立場や上下関係などが存在するため、「トップダウン式の社内会議の延長になってしまった・・」といったリスクを回避することもできます。
では、具体的にどのようなチーム構成をしたらよいのでしょうか。参加者間の活発なコミュニケーションが起こるようなメンバー構成とはどのようなものなのでしょうか。
ジェームズ・スロウィッキーの「みんなの意見は案外正しい」に記されている『群衆の英知を形成するための4つの条件』にもとづいて、細心の注意を払ってメンバーづくりを行うことをオススメします。
スロウィッキーは著書の中で、「なぜ多数は少数より賢いのか」について触れています。具体的には「集団において情報を寄せ集めることでその集団が出す結論は集団の中の個人の誰が考えるよりもよい結論を導くことができる」「すべての集団が賢いわけではない」と提言しています。そして、【図1】の4つの条件が、群衆の英知を形成するためには欠かせないとしています。
「多様性」「独立性」「分散性」「集約性」の考え方を意識してメンバー構成を行い、お互いが異なる視点で刺激し合えるように、「プロジェクトの事情を知っている初期からのメンバー」だけでなく、「事情を知らない新メンバー」を入れて議論の活性化を促します(図2)。
【ビジネスにおけるワークショップ】では、参加者の選定、チーム編成の段階から入念に計画する必要があります。
可能であれば、事前に各グループのリーダーを誰にするか?それぞれの班のテーマをどうするか?という役割分担や課題設定まで決めておくと、時間短縮につなげることもできます。
誤解を恐れずに言うと、これらのメンバーの抽出や構成がうまくいっていれば、究極、ファシリテーションは必要ないのかもしれません。