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リサーチャーのつぶやき 第47回「人の声と天の声」

2015/08/19

タグ:吉田 聖美 人の声 天の声

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 シニア・ディレクター インタビュアー 吉田 聖美

お盆休みを利用した旅行の一環で、名古屋にあるトヨタ産業技術館に行ってきた。豊田自動織機製作所からのトヨタ自動車株式会社の歴史をたどることができる施設なのだが、その中に創立者豊田喜一郎氏の言葉が並ぶ一角があった。

その中でも印象的だった言葉のいくつかを紹介したい。

『車のことを一番よく知っているのは、われわれではなく、毎日実際に運転している人なんだから車の手ざわりをよく知っている運転手にも意見を聴こう。』

うんうん、これぞリサーチ、という言葉。そしてそのすぐ側に並んでいたのがこの言葉。

『素直に受け入れなさい。すぐ技術者は言い訳をするからいけない。その意見を率直に受け入れてすぐ対処しなさい。』

実は繋がりはない、別々の場面で発せられた言葉で、並んでいたのも偶然かもしれないが、そうそう、聞きっぱなしで満足してはいけないよね、と感じた言葉だった。

リサーチの仕事、特に直接消費者の意見を聞けるインタビューは刺激的で面白いし、クライアントの方に「面白かった」「発見があった」と言ってもらえるととても嬉しい。一方で、その場の高揚があればあるほど、聴いたことで分かった気になってはいけない、それをどう活かすか、どう提案していくかが大事なんだと気を引き締めもする。

モデレーターでも「実査はやるが、レポートは他の人に任せる」という方もいる。しかし、私は自分がかかわった仕事はレポートも含めて担当するようにしている。それも聴きっぱなしではなく、消費者の意見を踏まえた上で、リサーチャーとしての自分の感性、直感を加えて提案を行うという作業がとても好きだからだと思う。

ブリーフィングの場でもそれを行うようにしているが、未熟さもあり、ブリーフィングの場だけでは充分に行えないことも多い。その分の思いを乗せる場としても、レポートを活用しているし、やはり冷静になってから分析を加えると新たな気づきがあることも多い。

「聴く」ということ、そしてそれに素直に対処すること、その大切さを実感し、実践している一方で、聴いた意見をそのまま素直に受け取ってはいけない場面もあることも身に染みて感じている。


消費者の意見は、貴重な意見ではあるが、それだけが全てではない。それを端的に表している言葉が「人の声を天の声にするな」という言葉だと思う。定性調査で大事なのは「人の声」である。ただし、それは絶対的な声、「天の声」ではない。

最近担当させていただいた仕事で「人の声を天の声にしてはいけない」と実感したことを2つほど、差しさわりのない範囲で紹介する。

1つ目は長く続いているトップブランドで、離反者の話を聞いたときに競合ブランドの方が○○が良い、と言われたケース。クライアントの開発担当者からは、では、このブランドも○○を採用した方が良いのではないか、という質問を頂いた。

2つ目は新商品として考えている「P」と「Q」2つの方向性を定性調査で呈示し、相対評価では「P」が優勢だったが、「Q」を強く支持する者も存在していたケース。


1つ目のブランドについては、ちょうど1年ほど前にも類似するテーマでグループインタビューを実施していた上、事前に頂いた資料で、いったんは競合ブランドに流れた消費者がトップブランドに戻りつつある様子を把握していた。なので、数字的な観点からも、過去に行ったグループインタビューの結果からも、○○を採用したところで、離反者が戻ってくるわけではないと考えます、ということをお伝えした。

離反者や認知非購入者の「人の声」は、その希望をかなえたところで必ずしもユーザーになってくれるわけではないという典型であり、本当にその声の通りにすることが有効なのか、リサーチャーとしての感覚的な判断も必要とされると思っている。


2つ目のケースに関しては、正直言って単なる勘の部分も多い(笑)ただ、年間60ジョブ以上、1000人以上の話を聴く経験をしている中で蓄積された勘ではある。

私から言えることとしては、「P」は安全パイではあっても化ける可能性は少ない、ただ、光る意見があったことを考えると、「Q」の可能性を捨てることは勿体ないと思います、ということだけで、ブリーフィングの場でもそれをお伝えした。

尚、後日談として「Q」の方向性を採用していただいたようであるが、これはクライアントの方もインタビューを聞きながら同じ思いを感じたからではないかと思っている。

こちらのケースは定性調査のやりがいの1つとして感じていることだ。日頃から「答えがでるインタビューよりも気づきがあるインタビューがしたい」と思っているので、クライアントの方から「色々とヒントがありました、気づきがありました」と言ってもらえると、(未熟度をさらすようですが)自分の中でうまく答えは出ていなくてもとりあえず嬉しい。

「人の声」は素直に受け止めなくてはいけない。ただ、そのまま採用して良いわけではない。
今後も「人の声」を刺激剤、材料として、「天の声」に高めていくお手伝いをしていきたいと思っている。