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テキストマイニングの小部屋 第12回「久々に注目された芥川賞」

2015/08/20

タグ:芥川賞 羽田圭介 梶山賢一 又吉直樹

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 アシスタント・ディレクター 梶山賢一

7月16日、第153回芥川賞・直木賞が発表された。芥川賞には羽田圭介さん又吉直樹さん、直木賞には東山彰良さんの作品が選ばれたが、お笑い芸人である又吉さんの『火花』の受賞はマスコミでもとりわけ大きく取り上げられた。

『火花』は、初出の「文學界」が異例の増刷になったり、三島由紀夫賞の候補になるなど、芥川賞以前から注目されていた作品であり、すでにお読みになった方もいるかもしれない。マスコミだけでなく、SNSでも盛り上がりを見せ、普段小説を読む人もあまり読まない人も、この話題を楽しんだようだ。今回は、羽田さんの作品も含めて、今期芥川賞についてのツイッター投稿を分析してみた。

■分析対象:「又吉 or 火花」「羽田 or スクラップアンドビルド」 という単語を含むツイッター。
        ただし、「RT」「bot」「宣伝目的のツイート」は除外した
■対象期間:2015/7/11〜8/10
■対象件数:27,077件
■分析ソフト:株式会社プラスアルファコンサルティング『見える化エンジン』


≪考察インデックス≫
1.7月上旬からの1か月間における又吉さんや『火花』への投稿のうち、約30%が7月16日に投稿されている
2.又吉さんへの投稿は受賞へのお祝いと作品への期待や称賛などの話題が多く、羽田さんへの投稿は、
   作品への期待の他、内容にも言及
3.又吉さんへは受賞の驚き、内容への期待、これからの読書意欲が見られる。羽田さんは読書意欲に加え、
   「上手い」など表現技術にも注目されている
4.投稿文字数は羽田さんの方が長め。又吉さんへは瞬発的な反応も多い



●7月上旬からの1か月間における又吉さんや『火花』への投稿のうち、約30%が7月16日に投稿されている


図1 時系列グラフ
芥川賞又吉・羽田時系列グラフ.gif

図1は7月11日から8月10日までの投稿数の時系列推移グラフである。「又吉さん関連のみ」「羽田さん関連のみ」「又吉さんも羽田さんも」という3つに分けている。なお、これ以降も、又吉さんへの投稿と羽田さんへの投稿に分けて分析を進める。

又吉さんと羽田さんへの投稿数を比べると、又吉さんは25,300件、羽田さんは664件と、約40倍の開きがあり、又吉さんへお注目度の高さがうかがえる。また、受賞発表当日の7月16日にするどいピークがあり、1か月間の投稿数の30%がこの日に集中している。


●又吉さんへの投稿は受賞へのお祝いと作品への期待や称賛などの話題が多く、羽田さんへの投稿は、作品への期待の他、内容にも言及

図2−1  ワードクラウド(又吉さん関連投稿ベース)
芥川賞又吉さんワードクラウド.jpg

図2−1は又吉さん関連のみの投稿内容をワードクラウドで表したものである。単語の位置に意味はないが、今回はわかりやすいように意味上のつながりが深いものを近くに配置した。件数が多いほど単語を大きく表示している。また、ポジティブな意味を持つ単語は赤く、ネガティブな意味を持つ単語は青く表示した(図ではネガティブ単語は現れていない)



図を見ると、「又吉」「火花」「芥川賞」「受賞」など今回のテーマの骨子となる単語や、「お笑い」「芸人だ」など作者の属性を表す単語、「面白い」「すごい」「好きだ」「読みたい」など、内容の評価にかかわる単語が見られる。
他に、「売り切れ」という単語もあり、店頭から在庫がなくなっている様子がうかがえる。

図2−2 ワードクラウド(羽田さん関連投稿ベース)
芥川賞羽田さんワードクラウド.jpg


図2−2は羽田さん関連のみの投稿内容をワードクラウドで表したものである。
又吉さんと同じく、「羽田圭介」「スクラップ・アンド・ビルド」など基本情報となる単語の他、「面白い」「良い」「気になる」などポジティブな単語が現れている。
他に、「祖父」「介護」「孫」「無職」など、本作品の内容に関する単語も見られる。

右下に「アウトデラックス」「TV」「キャラクター」「閣下」とあるが、これは8月6日にフジテレビ「アウト×デラックス」に羽田さんが出演したことをについてのツイートであり、羽田さんのはじけたキャラが話題になったようだ。


●又吉さんへは受賞の驚き、内容への期待、これからの読書意欲が見られる。羽田さんは読書意欲に加え、「上手い」など表現技術にも注目されている

図3 単語ランキング(形容詞のみ。上位20位)
芥川賞単語ランキング.gif

図3は又吉さんと羽田さんそれぞれの投稿のうち形容詞のみを取り出し、上位20位までを表した表である。品詞を形容詞に絞ったのは、物事への評価は形容詞で語られることが多いためである。

又吉さんは1位が「すごい」で、以下「読みたい」「面白い」と続く。とにかく受賞したことに対して素直に驚きを感じているようだ。上位にポジティブな単語が並んでいるが、10位以降では「難しい」「嫌いだ」「面白い(否)(=面白くない)」という単語もあり、少数ながらも難しさや面白味のなさも言われている。

一方羽田さんは1位が「面白い」であり、全体の投稿数の21.7%を占めている。又吉さんの「面白い」5.8%と比べるとかなり多いが、原文をよく見ると、作品に対してのことだけでなく、「アウト×デラックス」に出演したときに「面白い人」と思われているようだった。とはいえ、作品に対してももちろん面白いと言っている投稿も多い。
羽田さんは全体的にネガティブ単語は少なく、8位には「上手い」という単語もあり、内容自体への評価は高そうだ。


●投稿文字数は羽田さんの方が長め。又吉さんへは瞬発的な反応も多い

図4 投稿文字数のグラフ
芥川賞投稿文字数.gif

図4は、又吉さんと羽田さんそれぞれの投稿において、投稿文字数の割合を表したグラフである。
又吉さんへは1〜20文字の投稿が11.8%あるのに対し、羽田さんへは0.5%しかない。これは、そもそも2人の作品名の文字数がかなり違うことの影響もあるが、全体の文字数が多くなれば作品名の文字数の影響は少なくなるだろう。したがって、羽田さんへの投稿はより長文になっていると言える。文字数の違いは、内容の違いも意味していると考えられる。

又吉さんに関する投稿例.gif

羽田さんに関する投稿例.gif

最後に、又吉さんと羽田さんそれぞれの投稿から、いくつか原文を独断で選んで紹介する。褒めるにせよ批判するにせよ、微妙なニュアンスとコンテキストは現在のテキストマイニングではなかなかとらえきれないと思わせる。

又吉さんに関する投稿例2.gif

羽田さんに関する投稿例2.gif


●まとめ

今回の分析では、又吉さんの高い人気が特に目立った。もともと知名度があったとはいえ、内容自体にも期待と称賛が多かった。ただ、少数ながら、有名人が受賞することを大きくとりあげるマスコミへの批判や、売上を期待する出版界への批判も見られた。

確かにそういう面もあるかもしれない。が、筆者は今回の芥川賞を前向きに考えたいと思う。なにせ、恥ずかしながら、筆者自身ほとんど純文学を読まないにもかかわらず、又吉さんの小説はちょっと読もうかなと思ったからだ。同じように、これまでは小説を読まなかったにもかかわらず今回は手に取ったという人は多いだろう。特に読書の習慣がない若い世代にはよいきっかけになるのではないだろうか。

又吉さんの作品も羽田さんの作品も読むのにそれほど時間はかからない。まだ読んでいない方はぜひ!