株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 シニアディレクター インタビュアー 梅津 順江(ウメヅ ユキエ)
テーマがある程度見えてきたら、ファシリテーター及び運営に携わる関係者はワークショップをデザインします。ワークショップデザインの最初のステップに行うのが「ゴール(目標)」を設定することです。
「目標」は「目的」と似ていますが、「目的」が「なぜやるのか?」であるのに対して、「目標」は「どこまでやるのか?」になります。目標は、「各プログラムでめざすこと」といってもよいかもしれません。「目標」を示す時、「プログラム・デザイン」という言葉を用いるファシリテーターも少なくありません。
本稿では、後者の「ゴール(目標)」について、考察します。「ゴール(目標)」は、「アウトプット(output)」と「アウトカム(outcome)」の2つに大別して考えることができます。この2つを分けて設定しておくと、参加者がワークしやすくなるのです。
「アウトプット(output)」は、アウト(外に)プット(置く)ですので、「生み出すモノ、成果物」という意味で用います。ワークショップが終わった時に、目的に応じた具体的な成果物として何かあるという感じです。例えば、弊社内で●●部のメンバーを集めて2015年7月に実施した「『●●部の未来』を創造する」というテーマ(図1)の場合、「『私たちの所属する●●部』についての現状理解と分析」がアウトプット(図2の上)になります。
【図1】 テーマと目的(例)
もう1つの「アウトカム(outcome)」はアウト(外から)カム(来る)ですので、「得られるモノ、状態」です。
ワークショップ終了後、参加者にどのような状態になっていてほしいか、ということです。参加者が主語となるよう、注意が必要です。先の例でいうと、「『こんな部署になれたらいい』『おっ!現場で使えそう』の共有」がアウトカム(図2の下)になります。
【図2】 2つの目標(例)
アウトプットは「考えれば結論が出せること」、アウトカムは「考えた結果、起こる状況」と、訳すこともできそうです。
余談になりますが、アウトプットとアウトカムは、行政や教育の現場でよく使われる言葉だそうです。
行政の場面においては、事業を実施することによって直接発生した成果物・事業量が「アウトプット」で、施策・事業の実施により生じた効果・状態が「アウトカム」になります。
「交通安全を推進する」という目的で「歩道の設置事業」が発生した場合の例でいうと、「歩道を年度内に●●メートル設置」というのがアウトプットで、その結果「交通事故の減少」というのがアウトカムです。
教育の現場においては、教育政策が「アウトプット」で、教育政策によって得られることが「アウトカム」です。
読書時間の増加、GPA(Grade Point Average:各科目の成績から特定の方式によって算出された学生の成績評価値)やFD(Faculty Development:大学教員の教育能力を高めるための実践的方法)を実施している学校の増加など「教育現場での取り組み」がアウトプットで、学力や体力の向上、問題行動の減少などの「教育政策によって得られたこと」がアウトカムとなります。
これらの例をみても、「2つのゴール(目標)」を設定することで、目指すべきポイントや視座が明らかになることがわかります。
東京工業大学の教授 中野民夫氏は、ワークショップを「講義など一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加・体験して、共同で何かを学びあったり、創り出したりする、学びと創造のスタイル」と定義しています。筆者も日々のワークショップ体験の中で、ワークショップの醍醐味は、学びと創造を共有できた後に生じる腹落ち感にあると感じています。
この学びや創造に向うために、「ゴール(目標)」「プログラム・デザイン」を設定しておく必要があるのでしょう。「2つのゴール(目標)」に関しては、「動機(なぜ、いま自分がここにいるのか?)」や「期待(終わったら、どうなっていたいのか?)」をあらかじめ確認してもらうために設定します。「アウトプット」は進め方のイメージを明確化・共有化するためのもの、「アウトカム」は対話がもたらす本質的な価値を得るためのものだからです。
先に紹介した社内のワークショップ後も、このメンバーたちと語り合いの場を設けて良かったなぁ、と本心から思えました。部署内のメンバーがホンネで語り合い、部署間の課題を共有できたことに加えて、「より良い部署を築いていこう」という気概が生まれました。
上から目線ではない柔軟な現場からの発想、個々人の発想が起点となり、自分たちの中で納得できたからこそ、「明日から実践してみよう」という意欲に結びついたのだと考えます。
アウトプットとアウトカムをつなげて「目標」を設定することは、ワークショップを企画するうえで最も難しいといっても過言ではありません。「どんな状態を生み出したいか?」というアウトカムを想定しているうちに、「そのためにどんなアウトプットが必要になるか?」と逆算しながら「ゴール(目標)」を設定するケースもあります。最初に策定したアウトプットを修正することさえあるのです。
また、「これといったアウトプットがなく、アウトカムに集約できそう」というケースもあります。
筆者は参加者起点の意味のあるワークショップにするためには、アウトプットとアウトカムをただ設定すればよいのではなく、両者のバランス(関係性)が大切だと考えます。1つとして同じテーマや課題はないため、臨機応変にかつ柔軟に対応する必要があるのです。「必ずしもアウトプットありきでなく、アウトカムから考えてもよい」、「2つのゴール(目標)を結びつけて考えた結果、アウトプットを変えたり、1つのゴールにまとめてもよい」のではないでしょうか。