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リサーチャーのつぶやき 第49回「インタビューとモデレーション」

2016/05/18

タグ:吉田 聖美 インタビュー モデレーション

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 シニア・ディレクター インタビュアー 吉田 聖美

5月のゴールデンウィークが終わり、しばらく祝日はないのね、と寂しい気持ちになっています。ゴールデンウィーク明けから弊社に加わった新入社員を見ていて思い出したのですが、私の入社月も5月だった気がします。13年も前の話なので、おぼろげな記憶ですが、、、。

13年も同じ仕事をしていると、普段の仕事の中で自分のやり方、自分なりの考えが出来てきます。定性調査にまつわる新しい書籍の発売などがあれば、もちろん読んでみますが、そうでない限りは何となく、書籍から学ぶということも希薄になりがちでした。

そんな私ですが、13年目にして初めて「セミナー講師」にチャレンジする機会をいただきました。クライアントから直接お声掛けをいただき、調査結果のプレゼンテーションと絡めて、モデレーションや分析のやり方をご説明する機会はこれまでもあったのですが、オープンなセミナーでの講師は初めての体験になります。

講演に向けて、改めて色々な書籍を読み返したり、セミナーに参加したりしています。できれば、定性調査に関する書籍ではないところから気づきを得たことをお伝えしたいと思い、気軽に読める文体の書籍を眺め読みしている段階です。

その中の1冊に『一万人インタビューで学んだ聞き上手さんの習慣』という本があります。著者は出版関連の仕事に携わり、多くの著名人の方のインタビュー経験もお持ちのプロインタビュアーの佐藤智子氏です。

私は全くこの業界の知識がない方に自分の仕事を説明する際には「新商品を出したりするときにこの商品出たらどうですか?とインタビューをする仕事」と説明しています。
(モデレーター、グループインタビューはもちろん、定性調査、座談会も伝わらなかったりもするので)

先述の本を読んでいると、クライアントに対してのモデレーターの姿勢については、インタビュアーとモデレーター共通するところがたくさんありました。

質問をするとは自分が知りたいことを尋ねるだけではなく、相手のニーズを引き出すこと、といった姿勢などは確かにそのとおりだと思いますし、相手が求めていることがわかれば、おのずと「誰に、何を、どう聞けば良いのか」がわかってくる、ということも調査設計の本質だと思います。

余談ですが、最近、調査設計のフェイズにあまり関われないジョブも増えてきて、ちょっと残念なところではあります。リクルートが始まってから、そういう目的であれば、そういったことを聞きたいのであれば、リクルート条件こうしておけばよかったのに、と思うこともあったりします。スピードが求められ、中身が固まる前のリクルートをスタートさせなければいけないスケジュールでしか動けないというケースも多いとは理解していますが、、ジレンマです。

話を戻すと、クライアントに対する姿勢については共通するところが多いインタビュアーとモデレーターですが、話を聞く対象者に関しての姿勢では大きな違いがあります。

インタビュアーが媒体を意識してインタビューを行う場合、インタビューで取りたい言葉は「その媒体の利用者であるユーザーが欲しい情報」になります。そこにはニュース性やキャッチーなワードも求められます。

そのため、インタビューを行うときには、いきなり質問をするのではなく、質問の意図、話して欲しいことを伝えてからインタビューに入ることがほとんどとのこと。こういう人向けの言葉が欲しい、現在こういう状況なのでアドバイスが欲しい、といった答えやすくなるヒントを提示することで、相手が答えやすい状況を作り、「ステキな」言葉を引き出しているようです。

対してモデレーターは、実査の際には対象者に「決まりごとはない」「自由に話して欲しい」といった説明をします。こちらの意図や希望を伝えていくことはありません。「希望にかなう言葉を引き出していく」というよりは「バイアスをかけずにフラットに聞いていく」ことが特徴になります。

実はこの話、モデレーターの間で話題に上ったことがあります。「意図がわからない、何に使われるかわからない質問って答えにくいよね、不安になるよね」という考えから、「こういったことに使おうと思っています」と軽く意図を説明したり、「消費者の生の声を聞きたいという要望があり、皆さんに集まっていただきました」と説明したりする方もいらっしゃいます。

実査の中で、「この商品を周りの人に勧めるとしたら」「この商品を自分が好きなように開発するとしたら」といった質問を意図的に入れることもあります。「共創」の考えに近いかもしれませんが、私が使うのはどちらかというと話題が停滞したときの気分転換としての役割が大きいかもしれません。

それくらい、通常の流れでは「気の利いた言葉」よりは「自然な話の流れの中での言葉や反応」を聴取したいと考えています。その言葉をそのままコピーなどに使えるわけではないが、その言葉や反応からクライアント担当者が何かを感じ、コピーワードなどに繋げる、という流れが理想的かなと思っています。

雑誌などのインタビューと調査でのインタビューには「編集を前提としている」か「生声そのもの」か、という違いもあります。

ただ、「生声そのもの」を使うのではなく、それを聞いた人の意図や解釈を加えることが重要であるという点はどちらも同じなのかもしれません。グループインタビューやデプスインタビューでは、モデレーターだけではなく、クライアントも別の視点で自分の気づきや解釈を加えることができる、というのが定性調査の面白いところですし、ぜひとも現場で色々と感じとっていただきたいと思っています。