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リサーチトピックス 第9回 【マーケティング・リサーチへのテクノロジー活用と壁】

2017/05/24

タグ:牛堂雅文 レイ・ポインター アジャイル ポケモンgo

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文

●レイ・ポインター氏の来日

2017年5月8日、マーケティング・リサーチ業界の新しい取り組みを常に紹介しているNewMRの主催者、イギリスのレイ・ポインター氏の来日講演がありました。(JMRX勉強会:インテージ社会議室にて)

その中で、海外と日本のマーケティング・リサーチの比較があり、海外ではスマートフォン活用に代表されるように「テクノロジーの導入」が進んでいます。スマートフォンを用いた定量調査/定性調査の取り組みや、ビッグデータと他のデータの連携、AIの活用、「マーケティング・リサーチ・オートメーション」の導入など色々な取り組みがあります。

むろん、日本でも色々な取り組みはなされていますが海外ほどの規模感や華々しさはなく、「GRIT」という国際間比較の調査結果においても、日本は実施率の数字が低めであり、まだ従来型のマーケティング・リサーチが多く、新しい取り組みはまだ傍流といった印象もあります。

なぜ、日本では新しいテクノロジーを用いた取り組みはあっても、海外程の勢いがないのでしょうか。

「そもそも日本人は保守的である」、「そういったトライアルができる予算がない」、「日本は人口ボリュームが高い年代にありデジタルなど新しいことにやや及び腰である」など要素は様々あると思われますが、レイ・ポインター氏から一つのキーワードが呈示されました。

それは「アジャイル」という言葉であり、新しいものの開発・導入の進め方を変えて行こう…という提案でした。


●アジャイルとは

「アジャイル」とはそもそもIT業界発の言葉であり、アジャイル型開発という開発の進め方を指します。

アジャイル(俊敏な)型開発とは、仕様や設計の変更が当然あるという前提に立って、初めから厳密な仕様は決めず、おおよその仕様だけで細かい反復開発を開始し、「実装→テスト実行」を繰り返し、徐々に開発を進めていく手法です。

「仕様の変更はあって当然」という思想ですので、顧客に早い段階で一部機能だけのもので評価してもらい、早めに修正に取りかかれます。大きな修正を防げますので、ほぼ完成段階からの修正による遅延を防ぐことができ、開発期間の短縮を目指したものです。


●アジャイルの思想を阻むもの

これは開発の話だけではなく、実戦投入の段階においても言えることだと感じています。どれだけ素晴らしいものだと分かっても、「前例がない、事例がない」と聞くと急にトーンダウンして、導入を見送ってしまったりしないでしょうか。

新しい調査システムを試す場合でも、アジャイルの思想だと、「対象者が全員が回答、対応しなくてもまずは新しい情報が得られればOK。脱落については何がハードルになって脱落したか分かれば良い。」と考えそうです。

「アジャイル」という思想は、IT業界のものであり、マーケティング・リサーチ業界で浸透していないのは当然です。(個人的には、「リーン・スタートアップ」という言葉の方がむしろなじみ深く感じていました。)

ただ、「知っている、知らない」以前に、このアジャイル型の考え方になりにくい背景にあるのは、石橋をたたいて渡るような「100%絶対に大丈夫でないと進まない」という思想であると感じています。


もちろん、航空機の運航、医療関係など人命にかかわるものや、銀行での振込み、自動引き落としなどのシビアな業務で「100%大丈夫」であることが求められるケースもあるでしょう。

しかし、そこまでの精度がいらないものにまで最初から100%を求めてしまい、進展や採用が遅れているように感じています。


●ポケモンGOの衝撃

ここでアジャイル的な取り組みの事例として「ポケモンGO」を取り上げます。

海外(アメリカ)と日本の差を一番大きく感じた事例として、2016年の大ヒットゲームである「ポケモンGO」があります。ポケモンGOは、「ナイアンティック」というアメリカの会社が開発したものであり、実際の街にポケモンのモンスターがいるような、現実とゲームが融合するような新しい体験をさせてくれるものでした。

この「ポケモンGO」、世界及び日本で「絶賛と批判」の両方を呼び起こしました。ユーザーがゲームに熱中し、立ち入ってはいけないところにまで立ち入ってしまったり、運転中にポケモンGOをしていた人が逮捕されるなど、負の側面も注目されました。

もちろん対策も取られており、例えば車での利用をさせないよう移動が速いと利用が制限されていたのですが、多少の速さであればゲームができてしまうなどリリース時に細部の詰めは十分ではありませんでした。(後に、厳しく制限されるように変わりました。)

これが日本企業のみの開発であれば、もう少し慎重に細部まで考えた上でリリースされ、やや刺激の少ない人畜無害なゲームになっていたのではないでしょうか。

ポケモンGOは、100%の完成度ではない段階でリリースされたと考えられますが、開発速度優先の成果か、世界各国で大ブームを巻き起こすことに成功しました。オーストラリア版のリリースが7月6日、アメリカ版が7月13日、日本版が7月22日でした。他国でのブームの過熱が報道され、ブームが過ぎるかなり前に各国に展開できています。

完璧を待たずにリリースを行い、後から修正していくその姿勢に実に「アジャイルの思想」を感じました。


●小さな一歩

それでも、「ポケモンGOのやり方には負の側面もあり、問題がある」と考えられる方もいらっしゃると思います。ただ、少なくともマーケティング・リサーチにおいては、ポケモンGOほどの規模、影響力はありません。危険性は小さいはずですし、不安があるのであればまずは小規模、一部で試すなどやりようもあります。

「絶対大丈夫に思えてから試す」のではなく、「小さく試して経験を積み、精度を上げて規模を拡大していく」というスタンスになれば、新しいテクノロジーとももう少しうまく付き合っていけるだろうと考えています。


「小さな一歩」と言えば、世界で初めて月面着陸したアポロ11号:アームストロング船長の言葉を思い浮かべますが、例え最初は「小さな一歩」であっても沢山踏み出し続けて行けば、月とは言わないまでもいつかは新しい領域へたどり着けるのではないでしょうか。

レイ・ポインター氏の日本のリサーチャーへ向けたメッセージの裏にそういったものを感じました。


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