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リサーチャーのつぶやき 第50回 「ユーザーインタビューの教科書」

2017/05/24

タグ:吉田 聖美 ユーザーインタビューの教科書

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 シニア・ディレクター インタビュアー 吉田 聖美

 久しぶりのメルマガ執筆、ということで何について書こうか考えた結果、当面の間、気になった本を紹介しつつ、それについて現役モデレーターとして感じたことをお伝えする、というスタンスでいこうかと思っています。
 今回紹介する本はマーケティング/商品企画のためのユーザーインタビューの教科書(マイナビ出版 奥泉直子、山崎真湖人、三澤直加、古田一義、伊藤英明)です。

 「教科書」という名前が付いているとおり、「誰もがインタビューができるようになること」を目指して書かれている本です。インタビューフローの作り方から会場セッティング、リクルートまで網羅されていますし、インタビュー実施時の注意点や考察のポイントについても載っています。

読んでいて、読み手によって参考になるポイントや響くパートに違いがありそう、と感じました。例えば私はリクルートや会場設営のパートである「準備」に携わることは少ないのでそのパートは何となく確認。実際のインタビューのやり方が書かれている「実施」のパートも既に身に沁みついていることなので軽く読む程度。「はじめに」「計画」のパートに書かれていることが「わかっているつもりでいたけれども、実は整理して考えられていなかったこと」だったのでメモを取りつつ、読みました。その中で気になったポイントについて3つほど取り上げつつ、感じたことを書いていきたいと思います。

(1)インタビューは効率が良い?確実性がある?
 本書ではアンケートと比べたインタビューの特徴として「柔軟性」「効率と確実性」「直接の出会い」といった3点を挙げています。 「柔軟性」「直接の出会い」はイメージが付きやすいのですが、「効率と確実性」??インタビューは時間もかかるし、インタビュアーの裁量にも左右されるので効率と確実性とは遠いところにあるイメージでした。

よくよく読むと「効率と確実性」とは「誤解・歪曲を防ぐ」ということ。直近で経験したジョブでも、定量のアンケートで何気なく使っており、対象者も違和感なく回答している言葉がそもそもどんな意味で捉えらえているのかを知りたい、といった要望が挙がり、インタビューに組み込んだ経緯がありました。

このように、言葉の精度を高める工程を、その場で臨機応変にできる、ということはインタビューならではの価値だと思います。その部分の精度はモデレーターに任せられていることが多く、改めて気持ちが引き締まる思いです。


(2)相手がラクに考えられる質問とは?
 最近自分の中で意識を強めている考え方があり、それが本書にも書かれていた「相手がラクに考えられるようにする」です。質問ってつい、する側に意識が集まりがちですが、される側も大変ですよね。

 普段意識していないことを聞かれるし、気軽に答えるとなぜ、と追及されるし。心理を追求したい場合や物事を整理したいときはついついこちらもプローブが厳しくなりがちなので、時々「答えにくいよね」、「ごめんなさいね」、と思ったりもしています(現場でも「普段考えてないと思うけど」とか「きっとまたなぜって聞かれるんですよね?」という会話がなされたりもします)。

 この「相手がラクに考えられるようにする」、本の中で紹介されていた考え方は「全体をわかりやすいまとまりに分ける」「聞きやすく、答えやすい自然な流れを作る」でした。私が最近実践していることは、全体をわかりやすいまとまりに分けた上で、「それを対象者に開示する」です。具体的には「●●については後で聞くので、その前に▲▲について教えて下さい」ということを伝えることを行っています。
 
 もともとは「意識しないおしゃべりの中で自然と話題が移り変わっていくのが理想のインタビューの進め方」と思っており、特に開示はしていませんでした。昨年よりファシリテーションを学び始めたのですが、ファシリテーションの場では参加者にも話し合いの道筋を意識させることがセオリーとなっています。

 その進め方も経験するうち、グループインタビューの場でも場合によっては開示する方が対象者の話しやすさ、参加しやすさに繋がるのではないか、と考えるようになり、最近はケースに応じて実施しています。


(3)気付きの共有、そのときのポイントは?
 インタビュー終了後、リサーチ会社とクライアント側でブリーフィングと呼ばれる調査結果の振り返りの会を行います。その進め方はクライアントによってそれぞれです。

 モデレーターが結果をまとめて説明し、それに対してクライアントが補足・質問をする、というケースもありますし、クライアントのリサーチ部署の担当者がまとめて、不明点をモデレーターに質問し、モデレーターがそれに答える、というケースもあります。立場関係なく、その場にいる関係者が対話を行い、調査会社のリサーチャーがホワイトボードを使ってまとめていく、というケースもあります。

  本書では気付きの共有について「実際に得られた言葉」と「きっとこういうことを言いたかったんだろうと解釈した内容」や「自発的に語ったこと」と「こちらの話題に同調したこと」は分けて考える、分けて伝えなければいけない、ということが書かれていました。

 これはブリーフィングの際にも報告書作成の際にも心がけなければいけないことだと感じています。

 私がモデレーターの仕事を始めた15年前は報告書にも各論とサマリーがあり、サマリーの中にも要約と提案があり、と報告書が細分化されていたため、「実際に得られた言葉」は各論に、「解釈した内容」は提案に、など区分を分けて共有しやすい土壌があったのですが、今は「端的に言うこと」が求められている分、上記の区分は曖昧になっている気がします。本来はその区分こそが定性調査の中で忘れてはいけない視点の1つだと思うので、その点は意識し続けたいものです。

 尚、本書の最初にインタビューの意義として記載されていたのは下記のようなことでした。
「ある分野に精通した人は経験則に従った効率的な考え方をしがちで選択肢を無意識に狭めている。そこにインタビューの刺激を与えることで新しい発想に繋げていくことがインタビューの意義である」

 インタビューはマーケターの発想のためや、商品担当者が自分の考え方に確信を得るため、いずれにせよ、先に進むための補助ツールだと考えています。本書のように「誰もがインタビューができるようになること」を目指す流れがある中で「プロに頼む良さ・意義は何か」というのも考えていきたいと思っています。