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リサーチャーのつぶやき 第52回 『「つい、買ってしまった。」の消費者心理 』

2017/09/20

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 シニア・ディレクター インタビュアー 吉田 聖美


 前回・前々回と定性調査、インタビューにフォーカスした本をご紹介したので、今回はちょっと違う観点で、よりマーケティング寄りの本をご紹介したいと思います。

 今回ご紹介する本は『♯HOOKED(フックト) 消費者心理学者が解き明かす「つい、買ってしまった。」の裏にあるマーケティングの技術』(パトリック・ファーガン/上原裕美子訳)。人の心に響くためには(脳や心に)引っかかる」仕掛けが必要、ということが全般にわたって書かれています。

♯HOOKED(フックト)消費者心理学者が解き明かす.jpg

 GI(グループ・インタビュー)終了時のブリーフィングのときにもよく「ノイズ」「引っかかり」「(いい意味での)違和感」という言葉でご提案したりしますが、「整然とした」「優等生の」デザインって「良いんじゃないの?」という評価はあっても、「好き!欲しい!」という評価になりにくいんですよね。

 この本は、最初の導入部分に「本書の読み方・進め方」として「じっくりコース」「ざっくりコース」「お急ぎコース」といった読み手の読み方にあった提案がなされています。目次を読むだけで必要な要素がわかる点と合わせて、構成として「手に取らせる」ための仕掛けが随所にあります。アンダーラインや色分けが活用されている点も見せ方の例として参考になります。

 「気付かせる」ために「私のこと?と思わせる」「サプライズで気を向かせる」といった視点や、「ストーリー性を与える」ことで「考えさせる」といった視点は、普段から意識していることなのですが、「できるだけ原始的にする」「人が広告を読まないのは面倒くさいからなのでハードルをとことん下げる」といったことはつい思い入れが強くなると忘れがちな視点だな、とも気付かされます。そういう意味では「新しい発見をする」というよりは「何となく思っていることの気付きを得る」という使い方が近いのかもしれません。

 他にも、リサーチの場においては抜けがち(というか検証が難しい)段階ですが、「行動させる」という観点では「ただ注意を向けるだけでは不十分、実際に行動をさせなければ効果があったとはいえない」というシンプルな原則を思い知らせてくれます。

いくつか取り上げたいトピックはありますが、ここでは、メッセージは社会性の有無で伝わり方が変わる、つまり、「皆に向けたメッセージ」と捉えるか、「自分に向けたメッセージ」と捉えるかで、受け手への伝わり度は違ってくる、という視点についての気付きを少し書きたいと思います。

GIに入る前の挨拶の段階で私は必ずすべての参加者と自分の視線が合ってから、本題に入るようにしています。お願い事、注意事に関しても「自分に向けてメッセージが送られている」という実感がないとなかなか頭に入らないし、対面においては「自分に向けて」を感じてもらう有効な手段が「目を合わせる」だと思っているからです。


 では、対面では出来ないパッケージや広告では?最近一般的になってきたラベルのバリエーション(ちょっと前ですが『コカ・コーラ』の名前ラベル、同一ブランドのパッケージでもデザインにバリエーションを与える)もこの一環かと思います。他にも「・・・ではありませんか?」という広告の呼びかけメッセージや「あなたはどっちを選ぶ?」といった問いかけもこの「自分事化」を狙かったものだと思われます。

 パッケージでもコンセプトでも「自分向けの印象はあるか」という視点・質問を投げかけることがあります。が、自分向けだと本当に感じるときはモデレーターが助成しなくても「わかる〜その通り」とか「自分だ、と思ってどきっとした」「絶対買う」といった強い声が自然と挙がることが多いです。

そういう意味で言うと、そもそも「自分向け」と捉えないと「買う・興味を持つ」には繋がらず、これだけ商品が溢れている中では「自分向けと思わせる」ことがトライアルさせる必須の要素になってきているのかもしれません。


 この本の最後に書かれている言葉で印象的であった言葉の紹介もしておきたいと思います。

 「(マーケターには)この商品は、誰の、どんなときの笑顔を作れるのか、増やせるのか、をつねに想像しながら、笑顔に至るまでの消費者のストーリーを紡いでいくことを提唱したい」

 リサーチャーはまた違う中立的・公平的な視点も必要だと思っていますが、消費者の「想い」を理解するためには、自分も「想い」を持たなければいけないし、自分が関心を持てない商品に関心を持ってもらう、ということは難しいのかもしれない、ということを感じました。

 シンプルな原則ですが、自分も消費者になって商品を見てみる、自分で店頭に行ってみる、という姿勢はいつになっても忘れてはいけないことだと思いますし、この本のような「人の思考の傾向」を理解した上で、実際に体験してみる、ということは単なる体験では得られない発見や実感があるのではないか、と考えています。
 普段の業務に追われていると難しい点ではありますが、「消費者の心理を理解」しつつ、「消費者である」という双方の視点と体験を重視していきたいものです。


2017/09/20

category:リサーチャーのつぶやき