株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 ディレクター 牛堂雅文
マーケティング・リサーチにおいて「動画」は定性調査などの記録用としてかなり以前から使われていました。(CM評価などの動画の再生ではなく、撮影するものに絞って話を進めます。)
グループ・インタビューなどで「録画ボタンを押す」といった動作は自分で押すなり、人が押しているのを見るなりで、数多く経験しています。しかし、徐々にですがより積極的な動画活用がなされ始めています。

●行動観察・エスノと動画
行動観察や、エスノグラフィー調査が注目されるに従って、現場での発見を記録するために、ビデオ撮影をすることも徐々に増えてきました。対象者のご自宅に関係者は10人も押しかけられませんし現場に行ける人数の制約もあり、多くの方に共有するために動画が活用されることもあります。
現場に行っている当人でも見逃しはありますし、現場に行っていない人にとって動画は現場感覚の分かる貴重な資料となります。
ビデオカメラに手振れ補正機能があっても完全ではありませんので、撮影者の手振れによるカメラ酔いの問題も多少はありますが、静止画ではわからない部分も伝わるリッチデータとして動画が活用されています。
●UI/UX調査
また、別の流れとして、UI/UXの文脈の中で、webサイトやアプリの評価で「ユーザーの使用シーン」を撮影するような使い方でも動画が登場します。より、きっちりデータを取得する場合は、アイトラッキングの中で動画が活用されることもあります。
「実際にユーザーがどう使うのか?どう迷うのか?どういう流れで見ているのか?」ということを把握するために、動画が活用されます。「ボタンがあるのに、なぜわざわざそんなところから行く!」などと、想定外の動きを見るのには動画は非常にありがたい存在です。
これは余談ですが、「スマホなどの小さな画面」をカメラで捉えるにはそれなりに苦労があり、勢いあまって自分で撮影用アームを作成してしまいました。
多少やり方にバリエーションはありますが、UI/UX調査における動画撮影は日常的なものとなっています。
※UIは ユーザーインターフェイス(User Interface)の略
※UXは ユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略
●オンラインインタビュー
さて、ここまでは現場で我々が撮影するもの中心でしたが、近年「対象者自身が動画を撮影する」ようなものが出始めています。その一例が「オンラインインタビュー」です。
PCやスマホを用い、インターネットのスカイプ的なサービスを使用し、オンラインでインタビューを行うものです。
オンラインであること以外は普通のインタビューとも言えます。ただ、我々スタッフがご自宅を訪問しないため、実にリラックスした対象者の姿を見ることができます。弊社でも先日のシニアライフセミナーで、オンラインインタビューをご紹介いたしました。
そのインタビューではご自宅の様子もうかがえて、中々得るものが多いインタビューとなりました。
そして、少しリサーチから離れますと、医療の世界でもオンラインインタビューのシステムなどを利用した「遠隔診療」が注目され、お茶の水内科院長 五十嵐健祐氏が数年前から実践されています。
もう少し未来のことかとも思っていましたが、こういったオンラインでのインタビューや遠隔診療は、既に実用の域に達しています。
●スマホでの自分語り動画(セルフィー動画)
さらに未来的な動画の活用ということで、アメリカの事例に着目します。2017年のJMRAアニュアル・カンファレンスに登壇されるアメリカのモデレーター、ドリー・ペインター氏は対象者にスマホで自分のことを話してもらう動画を撮影してもらい、それをアップロードしてもらうような使い方を紹介されています。(JMRX勉強会でのご講演より)
スマホへの自分語り(セルフィー動画)という使い方で、リアルタイムではないところがユニークに感じています。撮り直しができる分無理がなく、さらにリラックスしてもらえるのではないかと考えています。
また、セルフィー動画の事例というよりは、「毎日の自分の顔の静止画をつなぎ合わせた動画」という少し違うアプローチになりますが、12歳から毎日自分のセルフィー画像を撮り続けたヒューゴ・コーネリアーさんの動画があります。 「セルフィー」から得られるものも多いと分かる事例となっています。
もちろん、こういった事例は常に海外が先行していますし、個人情報保護に敏感な日本ですので普及は今すぐではなく「少し先」になるかもしれません。しかし、セルフィーの活用は面白いと感じています。
●とはいえ…問題も
動画自体はリッチデータであり利用範囲も広がり「動画活用バンザイ!」と言いたいところですが、実際には問題もあります。
それは動画を見直すのは非常に時間がかかり、1時間の動画が10人分あれば10時間、20人分なら20時間かかってしまうなど、実務的に大変扱いずらいという点です。ダイジェスト版を作るのも非常に労力がかかります。
顔がばっちり映っているなど個人情報的に問題がある場合は、さらに管理の問題もあわさって面倒さは倍増します。
AIがそもそも得意とする領域である「画像認識技術」の向上や、「音声認識技術」の向上、撮影時からここが面白い!といったポイントを記録できるようにするなど、テクノロジーの向上でそれらの問題が少しでも緩和されれば…と感じています。
●VHS世代から見ると…
とはいえ、以前はグループインタビューなどVHSのビデオテープの荒い動画や、DVDの動画を見ていたことを考えますと、PC上で再生できるHD画質などのきれいな動画になっているだけでも、進歩したものだな…と感じてしまいます。
テクノロジーは日々進んでいますので、今後はきれいになるだけではなくAIなどによって「動画の扱いが楽になる」方の改善に期待しています。