株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
企画部 アシスタント・ディレクター 宮沢弥栄子(気象予報士)
「小寒(しょうかん)」
水泉動(しみずあたたかをふくむ)
―凍った泉の水が溶けて動く時期、1月10日ごろ。季節は少しずつ春に向かって動き始める。
1月7日は「七草粥の日」。我が家でも毎年スーパーで七草セットを買ってきてお粥的なものを作っている。早春にいち早く芽吹く植物をとることで邪気を払い、その年の無病息災を祈る。冬のビタミン不足を補いつつ、疲れた胃を落ち着かせる効果もあるとか。しかし私の作り方が悪いのか、どうしても「雑草」の味しか感じられず、毎年朝の食卓が微妙な空気になる。
■相対湿度=周りの空気にどのくらい水分を奪われやすいか
さて今回は地味にすごい「湿度」についてお話ししたい。湿度とは文字通り「空気の湿り度合」で、空気中に含まれる水分量のこと。尺度はいくつかあるが、天気予報などで一般的に最もメジャーなのは「相対湿度」である。
空気は温度が高いほどたくさんの水分を含むことができる。相対湿度は「その温度の空気中に含むことができる最大限の水分量(飽和水蒸気量)に比べ、どのくらいの水分を含んでいるか」を示し、単位は%で表す。これに対して絶対湿度は「一定の容積に含まれる水分の絶対量」を表す。
人間を中心に見ると、相対湿度は「周りの空気にどのくらい水分を奪われやすいか」の度合いと考えれば分かりやすい。相対湿度が低ければ、それだけ皮膚や粘膜など身体の表面から水分が蒸発しやすく、自分自身が乾燥しやすい過酷な環境ということになる。
■激しく乾燥する1月、2月
湿度(以下「相対湿度」のこと)は初夏から夏にかけて高くなり、秋から冬にかけて下がってくる。東京で最も湿度が低いのは1〜2月、ちょうど今が乾燥のピークである。
先に説明した通り、空気は温度が高いほどたくさんの水分を含むことができるため、冬と夏では相対湿度が同じでも空気中に含まれる水分の量=絶対湿度は違ってくる。
例えば同じ湿度50%でも、気温が30℃なら1㎥あたり15gの水分を含んでいるが、気温が10℃なら4.7gしか含まれていない。気温も湿度も低い今の時期、空気はカラカラのパサパサに乾ききっているということだ。
■湿度が下がると売れるモノ
湿度が低いと鼻や咽喉の粘膜が傷つき、呼吸器系の病気にかかりやすくなる。また皮膚の水分も蒸発しやすく、肌が乾燥するのは多くの人が実感していることだろう。
気象庁では気温・湿度・気圧などの気象情報を産業に活用する研究調査を行っている。この調査によると、ドラッグストアで湿度が低いほど売れるモノはハンドケア、リップケア、風邪関連商材(マスク)、入浴剤、使い捨てカイロ他。逆に高いほど売れるのは虫さされ薬、殺虫剤など。まあそうだよな、という結果である。
身体に最も影響するのは気温なので、やはり気温の相関関係と比べると今ひとつ地味な感じだ。
この分析に使われている数値はおなじみの相対湿度だが、最近の研究ではウイルスの生存率は絶対湿度に反比例し、インフルエンザの流行は相対湿度よりも絶対湿度と関係が深いことが分かっている。
また人間が感じる快・不快、心理的なイライラや集中力なども絶対湿度の影響が大きいという説がある。絶対湿度を指標に売れる商品との関係を調べると、また新しい発見があるかもしれない。
■肌よりも湿度の影響を受けるのは・・・
人間の身体で最も湿度の影響を大きく受ける部分はどこか?
正解は「髪の毛」。
湿度が高いと髪がうねって広がったり、膨らんでボサボサになったり、逆に重くてぺったんこになったり、とにかくヘアスタイルが決まらない。特に癖毛の人は梅雨時や雨の日に苦労しているようだ。
毛髪の表面にはたくさんの穴が開いており、湿度が高くなると水分を吸収して膨らみ、低くなると縮むという性質がある。相対湿度0〜100%の変化に対する毛髪の伸縮率は長さの2.5%程度、10cmの長さなら2〜3mmの伸び縮みがあるとのこと。この性質を利用して、昔は湿度計に人間の髪が使われていた。
今でも美術館や博物館などでは毛髪式湿度計が実用的に使われている。
ちなみに湿度計に使う髪は何でもよいという訳ではなく、日本人の黒髪は硬くて湿度に対する反応が鈍いため向かない。適度に細くて柔らかく、弾力性、応答性などに優れているため「フランスの若い女性の金髪」が最適と言われている。ということは、金髪の人は「雨の日の髪のうねり」にもっと悩まされているのだろうか・・・
「雨がやんだ後は、よい時が訪れる」
―フランスのことわざ。「雨の日の結婚式は幸運をもたらす」という言い伝えもあるとか。
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【参考文献】
日本生気象学会編 (1992) 「生気象学の事典」 朝倉書店
村山貢司(2009)「健康気象学入門」 日東書院
浅野八郎(2002)「雨の日は浮気が多い」 扶桑社
気象庁:気候リスク管理技術に関する調査〜ドラッグストア産業分野〜