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リサーチャーのつぶやき 第53回 『「高齢社会」に向けての調査手法』

2017/11/21

株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー
定性調査部 シニア・ディレクター インタビュアー 吉田 聖美 


 先日11月17日、弊社主催の「シニアセミナー」が開催され、私も全体進行とパネルディスカッションの司会を担当しました。その余韻があることもあり、今回紹介する本は『高齢社会のアクションリサーチ(JST社会技術研究開発センター 秋山弘子編:東京大学出版会)です。

高齢社会のアクションリサーチ.jpg

 学術研究、論文寄りの内容もありますが、「地域密着人口」など「高齢社会」を考える上でキーとなりそうなワードが散りばめられている本でもあります。

*「地域密着人口」:居住地域で終日のほとんどを過ごす人たちの数
「高齢社会」→「地域密着人口が増加」→「多くの課題は日常生活している地域社会にある」→「生活するコミュニティにおいて課題を洗い出し、解決策を考案してそれを施行するアクションリサーチが有効」と説かれていました。

 モデレーターとしては、
1) アクションリサーチの手段としてFGIが活用できる
2) アクションリサーチの考え方を取り込むことでより良いGIを実現できる(のでは?)という観点で読んでみました。

※「GI」は「グループ・インタビュー」の略、「FGI」は「フォーカス・グループ・インタビュー」の略であり、同じものを指します。


1) アクションリサーチの手段としてFGIを活用
 本著では、FGI(フォーカス・グループ・インタビュー)はコミュニティの変化を捉える手法として紹介されていました。FGIはコミュニティのエンパワメントを図ることや変化を捉えることに有効だが、「信頼性」「妥当性」を持たせることが難しいとの記載には、まさにその通り、との気持ちでした。

 定性調査でたかだか1グループ6名の話を聞いたとしてそれが市場全体を反映していると言えるのか、との疑問を抱えている方は多いと思います。

 学術的に見ても「量的研究法(定量調査)」に関しては「信頼性と妥当性」を検証する方法があるが、「質的研究法(定性調査)」は必ずしもそうではない、とのことです。FGIにおいては複数名のメンバーが参加し、相互確認を行うことが「信頼性と妥当性」を高めることに不可欠、とはされていましたが、十分ではないですよね。

質で判断するものにおいて100%の「信頼性と妥当性」は無理だと思うので、モデレーターとしての経験値を積むことで経験則の精度を上げ、発言を読み取り、理解し、伝える力を磨くことで信頼性を高めるしか自分にはできないのかな、とは思っています。……そのうち、AIで100%の答えが出たりするんですかねぇ。


2) アクションリサーチの考え方を取り込むことで、より良いGIを実現する
 より良いGIを実現するために採用できそうと感じた視点がいくつかあります。

●アクションリサーチでは単なるPDCAサイクルを回すだけでなく、わかったことを他のコミュニティへ波及させるための要件の設定が必要
 ⇒(GIに転用すると……)対象者がこの場で○○だったことから、△△のような状況を起こすと同じように○○することができると推察される、などブリーフィング、提案の視点として取り込めそう。

●「アクションリサーチ」「ワークショップ」「グループダイナミクス」いずれも社会心理学の父と言われるクルト・レヴィンの「場の理論」がベースとなっている
 ⇒GIの場を活用したワークショップ、GIのブリーフィングや報告会をワークショップで行う、など両者の相性はきっと良いはず。個人的には、昨年からFAJ(日本ファシリテーション協会)において、ファシリテーションの勉強も行っているのでここはやりたいな、と思いました。

●アクションリサーチの中では「アクション」と「リアクション」の整理が重要
 ⇒どの問いや刺激が反応を引き起こしたかの分析はドキュメントなどでは限界があるため、本来はモデレーターの腕の見せ所。最近は簡略化させたレポートが求められることもあり、ちょっと抜けがちだったことを反省しました。

●エスノグラフィー的なアクションリサーチの場では、インタビューにおける逐語録ではなく、研究者が調査・研究に関わる中で見聞きしたり体験したことのメモ書き的な記録が重要、その場で感じたことや思ったことを書き記すことも有効
 ⇒メモ書きについては、モデレーターは限界がありますが、対象者の発言ではなく、「その場で自分が感じたこと」のメモをリサーチャーやクライアントの方はぜひやっていただきたいと思います。


 本著の執筆者のお一人、私の母校の教授だったのですが、学生時代に学んだ(あまり真面目にやっていませんでしたが……汗)社会学と、JMAで14年間やってきたグループインタビューと、学び始めたワークショップと、最近携わったシニア研究と、と自分が関わってきた様々な要素が1つになった感があり、そういった意味でも感慨深い本でした。

 余談ですが、本編以外で印象に残っていることとして、次のような記載がありました。
「現状、横断歩道は1メートルを1秒で歩くことを前提とした設計になっているが、75歳以上の女性の多くはこのスピードで歩くことは難しい」
前提の見直しが色々なところで必要になる社会が高齢社会なんだな、とはっとしました。身の回りのことに落とし込まれると急に問題の現実味が起きてくる、と感じた記載でした。


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2017/11/21

category:リサーチャーのつぶやき