定性調査部 シニア・ディレクター インタビュアー 吉田 聖美
最近、自分の周りでワークショップブームです。一昨年より日本ファシリテーション協会(FAJ)の会員となり、ひそかに(?)ファシリテーションの勉強をしていたのですが、調査業界でもワークショップへのニーズが高まりつつある現状を感じています。
先日、弊社50周年記念の企画として大先輩のモデレーターさんと対談をさせていただきました。そのときの様子は機を見て弊社HPにアップされますが、その方も「最近デプスインタビューとワークショップを組み合わせた形が増えてきている」というお話をされていました。
デプスインタビューで消費者を深く探り、そこで感じたことを材料としたワークショップをクライアントと共に行うことで、単なる結果の共有だけでなく、クライアントに気付きを与える、という形です。昔と比べると調査結果の報告会が減ってきているという事実がありますが、それに替わる定性調査の活かし方と言えるのではないでしょうか。
ワークショップの最大の特徴は、参加者が共通のゴールに向かって、それぞれの立場から意見を出し合うという形にあります。そして、それを容易にする、円滑にするのがファシリテーションです。
私が好きなファシリテーションの考え方の1つなのですが、ファシリテーションは「発芽促進」「それぞれの人の中にある種が芽吹くのを助ける」存在だそうです。定性調査の結果は、その場にいる皆さんそれぞれ受け取り方が違ったり、感じ方が違ったりすることがあります。
クライアントと調査会社のリサーチャーでは視点が違うこともありますし、同じ会社内でもその人の背景や目的意識によって視点が違うこともあるかと思います。
それを「違う」と終わらせるだけでなく、多様な視点・発見として活かしていく、というのがワークショップを行う意義かと思っています。また、相互作用により、当初は考えていなかったような発想も浮かぶ可能性があるのがワークショップの面白さです。
とは言え、ワークショップやファシリテーションのイメージがあまり湧かない、という方もいらっしゃるかと思います。2月9日に弊社では50周年記念事業の1つとして全社員を対象としたワークショップを行ったのですが、そのときも「ワークショップって何?」という声が挙がっていました。
そこで今回は(やっと本題ですが)ファシリテーションに関する書籍の紹介です。
『ストーリーでわかるファシリテーター入門―輝く現場をつくろう!』森時彦著。
この2月に発売されたばかりの、一人の社員がワークショップを通じて、周りの意識を変えていく物語です。付箋の使い方、アイスブレイクの仕方、ポジショニングマップの作成方法などワークショップを円滑に進める方法がちりばめられています。ちなみに、同じ著者の『ザ・ファシリテーター』はリーダーがファシリテーションを使って組織を改革していく物語でこちらもお勧めです。
書籍の中で、私が印象に残っていることなのですが、ワークショップを行うことで、その場での発見やアウトプット以外にも、その後の生活に何らかの意識の変化が起こる、という話がありました。意識が変わることで、今までは気に留めていなかったコト・モノを目にしても「もしかしたらこれって役に立つかも」とか「こういう考え方もあるのかも」という気付きが生まれることがあります。
先ほどのクライアントとのワークショップで言うと、その後も実際の商品やサービスと深く関わっていく立場の人に自分では気付けなかった視点を与えることは、その調査からの発見だけではなく、大きな発見に繋がっていく可能性を秘めているということかと思います。
といいつつ、ワークショップは1回やって満足、ということよりも、次にこれをやりたい、とか、もっとこうしたい、これを知りたい、という思いが出てくるのも事実。書籍の中でも1回目は意識改革、2回目はより具体的な行動戦略、とワークショップの産物が変化しています。そういう意味では、調査後のワークショップだけでなく、ワークショップ後の調査も有効かと思われます。
そして、もちろん、そのときの位置づけや求められることにより、都度ワークショップの内容や仕掛けも変わってくるのも面白いところ。
その時々で有効な形を考えつつ、定性調査×ワークショップの可能性を更に探っていきたいと思っています。